遺産相続

遺産分割協議書は手書きでも有効!手書きの手順や記載例・注意点を解説

2026.01.06

「遺産分割協議書を作りたいけれど、パソコンがないから手書きでも大丈夫?」と不安に感じていませんか。結論から申し上げますと、遺産分割協議書は手書きで作成しても法的に全く問題ありません。

しかし、手書きには特有の注意点があります。一文字の書き間違いや、訂正方法のミスがあるだけで、せっかく作成した書類が受理されず、相続人全員でやり直しになるリスクもあるのです。

そこでこの記事では、相続のプロである司法書士が、手書きによる遺産分割協議書の正しい作成手順や、そのまま使える記載例、無効にしないためのチェックポイントを分かりやすく解説します。

また、遺産分割協議書を自分で作成する場合と専門家に依頼する場合の比較もしているため、遺産分割協議書の作成についてお悩みの方はぜひ最後までご覧ください。

1.遺産分割協議書は手書きでも法的に有効

遺産分割協議書は、手書きでもパソコン作成でも法的な効力は同じです。重要なのは形式よりも、相続人全員が内容に合意していることと、その合意が書面上で確認できることです。

ただし、相続登記や金融機関の相続手続では、実印での押印や印鑑証明書の提出を求められることが多いため、実務上は「署名(または記名)+実印+印鑑証明書」で揃えておくと手戻りを避けやすくなります。

2.そもそも遺産分割協議書とは何か

遺産分割協議書とは、亡くなった方の財産を誰がどのように引き継ぐかをまとめた合意文書です。相続人が複数いる場合に作成し、話し合いの結果を正式な形として残します。

まずは、遺産分割協議書の概要を説明していきます。どのような書類なのか、理解を深めましょう。

2-1.遺産分割協議書を作成する目的

遺産分割協議書を作成する目的は、親族間における言った言わないの争いを防ぐためです。

相続において、口約束だけでは時間が経つと記憶が曖昧になり、後から不満やトラブルが起きるリスクが高まります。一方書面に残して全員が署名と押印をおこなうと、合意内容が明確になり、将来にわたって安心感を得られるのです。

さらに、法務局や金融機関に対して、相続人全員が納得して財産を分けた事実を客観的に証明する役割も果たしています。

2-2.遺産分割協議書が必要なケース・不要なケース

遺産分割協議書が必要になりやすいのは、「相続人が複数いて、誰がどの財産を取得するかを協議したうえで決定し、その内容を根拠に名義変更・払戻し等の手続きをする場合」です。

一方で、次のように別の根拠書類で手続きできる場合は、遺産分割協議書が不要(または提出不要)になることがあります。

  • 遺言書の内容どおりに手続きする場合
  • 家庭裁判所の調停調書・審判書などがある場合
  • 金融機関の所定書式で代替できる場合(銀行ごとに運用差があります)

遺産分割協議書を作成しない場合のリスクについては以下の記事で詳しく解説しています。あわせてご覧ください。

関連記事:遺産分割協議書を作成しないとどうなる?起こりうる6つのトラブル例

2-3.遺産分割協議書作成までの流れ

遺産分割協議書作成までは、以下のような流れで進みます。

  1. 相続人を確定する
  2. 財産のすべてを正確に調査する
  3. 相続人全員が集まって話し合い、具体的な分配方法を決める
  4. 全員の合意が得られた段階で、書類の作成に取りかかる
  5. 各自が内容を確認して署名と実印での押印をおこなう

一つひとつのステップを確実におこなうことが、不備のない書類を作るコツです。

2-4.遺産分割協議書を作成するタイミング

遺産分割協議書を作成するタイミングに、法律上の決まりはありません。実務的には、相続人が集まりやすいタイミングに協議を始めるケースも多いでしょう。

ただし、相続税の申告が必要な場合は、申告期限(原則10か月以内)があるため注意が必要です。分割が申告時点で確定していないと、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例が当初適用できないことがあります。

一方で、事情により期限までに分割できない場合は、「申告期限後3年以内の分割見込書」等の取扱いもあるため、状況に応じて対応を検討しましょう。

2-5.遺産分割協議書を活用する場面

遺産分割協議書を活用する場面は、主に以下のような場面です。

  • 不動産の名義変更(相続登記)
  • 預貯金の解約・払戻し・名義変更(銀行等)
  • 証券口座(株式・投信など)の移管・名義変更
  • 自動車(普通車)の名義変更(移転登録)
  • 相続税の申告・特例適用(分割が絡むところ)

各種手続きを滞りなくおこなうために、正確な内容が記載された遺産分割協議書を準備しておくのが不可欠です。それぞれ解説します。

2-5-1.不動産の名義変更(相続登記)

相続登記では、「誰が不動産を取得するか」を確認できる書類が必要になります。遺産分割で取得者を決めた場合は、遺産分割協議書がその根拠書類になるためです(遺言や調停調書等で代替できる場合もあります)。

相続登記と遺産分割協議書の関係については、以下の記事でさらに詳しく解説しています。あわせてご覧ください。

関連記事:相続登記に遺産分割協議書は必須?ない場合の手続きの進め方

2-5-2.預貯金の解約・払戻し・名義変更(銀行等)

預貯金の相続手続では、金融機関が「相続人全員の合意」を確認できる資料を求めます。遺産分割協議書を提出するケースも多い一方、金融機関によっては所定の相続手続書類(同意書・依頼書等)で足りる場合もあります。

いずれの場合も、口座を特定できるように(金融機関名・支店名・種別・口座番号等)を明確にし、相続人全員の協力が得られる形で進めることが大切です。

2-5-3.証券口座(株式・投信など)の移管・名義変更

証券口座にある株式や投資信託を相続する場合、名義変更の手続きに遺産分割協議書が必要です。

証券会社は、保有している銘柄や数量を誰に引き継ぐのかを明確にするために、遺産分割協議書を確認します。とくに複数の銘柄がある場合は、それぞれを誰が受け取るのかを具体的に記載しておかなければなりません。

資産価値が変動しやすい株式などは、手続きが遅れると売却のタイミングを逃す恐れもあるため、早めの書類準備が大切です。

2-5-4.自動車(普通車)の名義変更(移転登録)

普通車の名義変更(移転登録)では、原則として「誰が車を相続するか」を示す書類が必要です。通常は遺産分割協議書を用います。

ただし、国土交通省(運輸局)の様式として、相続する自動車の価格が100万円以下であることを確認できる資料を添付できる場合に限り、「遺産分割協議成立申立書」で申請できる扱いがあります。

2-5-5.相続税の申告・特例適用(分割が絡むところ)

相続税の申告自体は、原則として相続開始から10か月以内におこないます。分割が確定していない場合、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例などが当初適用できないことがあります。

期限までに分割が難しいときは、国税庁が案内する「申告期限後3年以内の分割見込書」などの制度を踏まえ、申告・特例適用の進め方を検討しましょう。

3.遺産分割協議書を手書きで作成する手順

手書きで遺産分割協議書を作成する際は、以下の手順に沿って対応を進めてください。

  1. 事前情報を確認しまとめる
  2. 遺産の分け方を決める
  3. 本文を作成する
  4. 相続人全員の署名・押印を集める
  5. その他の必要書類を準備する

詳しく解説します。

3-1.①事前情報を確認しまとめる

まずは、相続人と財産に関するすべての情報を一覧にしてまとめる作業から始めます。戸籍謄本を取り寄せて、誰が法的な相続人であるのかを100%確定させましょう。

また同時に、通帳や登記事項証明書、車検証などを手元に揃えて、財産の内容を詳細に把握します。これらのもとになる情報を整理しておくと、本文を書くときに書き損じを防げるようになります。

3-2.②遺産の分け方を決める

次に、収集した情報をもとに、相続人全員で納得いくまで話し合いをおこなって遺産の分け方を決めます。誰がどの財産をもらうのかを、具体的かつ明確に確定させることがこのステップの目的です。

たとえば「家は長男、預金は次男」といった具合に細かく取り決めていきます。全員が合意した状態でなければ、署名を拒まれることがあるため、しっかりと話し合ってください。

3-3.③本文を作成する

全員の合意ができたら、いよいよ遺産分割協議書の本文を手書きで作成していきます。用紙は厚手の白紙がおすすめで、黒のボールペンや万年筆など、消えない筆記具を使って丁寧に書き進めてください。

この際、後から付け足しや改ざんができないように、行間や余白を適切に管理して書くのがコツです。公的な書類であるのを意識して、第三者が読んでも内容がはっきりとわかるように、楷書体でハッキリと書きましょう。

3-3-1.基本的な構成

遺産分割協議書の基本的な構成は、以下のようになります。

  • タイトル(例:遺産分割協議書)
  • 被相続人の特定(氏名/最後の住所/死亡日)
  • 前文(相続人全員で協議し合意した旨)
  • 相続人の特定(相続人全員の氏名・住所を列挙するか、末尾の署名押印欄で担保)
  • 遺産の分割内容(財産ごとに「取得する相続人」を明記)
  • 不動産(登記事項証明書どおりの表示)
  • 預貯金(金融機関名・支店名・種別・口座番号など)
  • 有価証券(証券会社・口座・銘柄・数量など)
  • 自動車等(登録番号・車台番号など)
  • その他(動産・保険金等の扱いをどうするか)
  • 債務の取扱い(借入金・未払金などがある場合に誰が承継/負担するか)
  • 手続を進める代表者(入れる場合:名義変更・払戻し等の窓口対応者)
  • 協議外遺産の取扱い(後から判明した財産が出た場合のルール)
  • 作成日(協議成立日・署名日などの扱いを統一)
  • 相続人全員の署名・押印欄(住所/氏名/押印〔実印が無難〕)
  • (複数ページの場合)契印(割印)・ページ番号等の体裁整備

まず冒頭に「誰の相続に関する協議であるか」を明記するところから始まります。次に、話し合いによって合意した具体的な内容を、財産ごとに項目を分けて記載します。最後に、この協議に間違いがないのを証明するための日付と、相続人全員の署名捺印欄を設けるのが標準的な形です。

3-3-2.財産を書く際のコツ

財産を書く際は、誰が見てもその財産が特定できるように詳細な情報を書き込むようにしてください。

たとえば預金であれば「銀行名、支店名、種別、口座番号」をすべて書き、不動産であれば登記簿通りの「地番や家屋番号」を正確に写します。

とくに手書きの場合は、数字の書き間違いが起きやすいため、一文字書くたびにもとの書類と照らし合わせるようにしましょう。

3-3-3.その他記載すべきもの

目に見える財産以外にも、忘れずに記載しておくべき項目がいくつかあります。

たとえば、協議後に新たに見つかった財産をどのように分けるかという「予備的な条項」を書いておくと、後日のトラブルを防げます。また、葬儀費用の負担方法や、債務の引き継ぎについても明記しておくと安心です。

細部まで気を配り、漏れのない内容を目指しましょう。

3-4.④相続人全員の署名・押印を集める

本文が完成したら、相続人全員に内容を確認してもらい、署名(または記名)・押印を揃えます。遠方の場合に郵送で回覧すること自体は可能です。

なお、法律上「実印でなければ無効」と決まっているわけではありませんが、相続登記などでは実印+印鑑証明書で求められることが多いので、提出先の要件に合わせて準備すると安全です。

3-5.⑤その他の必要書類を準備する

遺産分割協議書が完成したら、手続き先が求める添付書類(戸籍、住民票、印鑑証明書等)を準備します。必要書類や「印鑑証明書の発行から何か月以内か」といった扱いは、提出先(法務局・金融機関等)によって異なるため、事前確認が重要です。

4.【パターン別】遺産分割協議書を手書きで作成する際の記載例

ここからは、以下3つのパターンに分けて、遺産分割協議書を実際に手書きで作成する際の記載例をご紹介します。

  • 法定相続分どおりに相続する場合
  • 一人だけが相続する場合
  • 特定の財産を特定の相続人のみが相続する場合

相続ごとに状況が異なるため、すべてが当てはまるとは限らないという点にご注意いただきながら、手書きする際の参考にしてください。

4-1.法定相続分どおりに相続する場合

すべての相続人が法定相続分どおりに相続する場合、以下のように記載します。

遺産分割協議書

被相続人 〔氏名〕(以下「被相続人」という。)
最後の住所 〔住所〕
死亡日 令和〔年〕〔月〕〔日〕
相続人全員は、被相続人の遺産について協議のうえ、次のとおり遺産分割を行うことに合意した。

第1条(遺産分割)
被相続人の遺産は、法定相続分に従い、次の割合で取得する。
1.相続人 〔配偶者氏名〕 2分の1
2.相続人 〔子A氏名〕 4分の1
3.相続人 〔子B氏名〕 4分の1

第2条(手続)
相続手続(預貯金の払戻し、名義変更等)は、相続人 〔代表者氏名〕 が行う。必要書類への署名押印は、相続人各自が協力する。

第3条(協議外遺産)
本協議書に記載のない遺産が後日判明した場合は、相続人全員で別途協議する。

令和〔年〕〔月〕〔日〕
相続人 住所:〔住所〕氏名:〔氏名〕 印(実印)
相続人 住所:〔住所〕氏名:〔氏名〕 印(実印)
相続人 住所:〔住所〕氏名:〔氏名〕 印(実印)

法定相続分どおりの相続における遺産分割協議書については、以下の記事でさらに詳しく解説しています。あわせてご覧ください。

関連記事:法定相続分通りの相続では遺産分割協議書は不要?作成しないリスクとは

4-2.一人だけが相続する場合

相続人一人のみが遺産を相続する場合は、以下のような形式で記載します。

遺産分割協議書

被相続人 〔氏名〕
最後の住所 〔住所〕
死亡日 令和〔年〕〔月〕〔日〕
相続人全員は、被相続人の遺産について協議のうえ、次のとおり遺産分割を行うことに合意した。

第1条(遺産分割)
被相続人の遺産の全部を、相続人 〔取得する人の氏名〕 が取得する。

第2条(協議外遺産)
本協議書に記載のない遺産が後日判明した場合も、前条と同様に相続人 〔取得する人の氏名〕 が取得する。

令和〔年〕〔月〕〔日〕
相続人 住所:〔住所〕氏名:〔相続人A〕 印(実印)
相続人 住所:〔住所〕氏名:〔相続人B〕 印(実印)
相続人 住所:〔住所〕氏名:〔取得する人〕 印(実印)

「全部を取得」と書く場合、銀行や法務局はそれで進むことも多いですが、不動産登記や金融機関の手続で対象財産の列挙を求められる運用もあります。確実にするなら、次の章で記載するように財産を列挙する形が最も強いです。

4-3.特定の財産を特定の相続人のみが相続する場合

不動産をはじめとした特定の財産を特定の相続人のみが相続する場合は、以下のように記載します。

遺産分割協議書

被相続人 〔氏名〕
最後の住所 〔住所〕
死亡日 令和〔年〕〔月〕〔日〕
相続人全員は、被相続人の遺産について協議のうえ、次のとおり遺産分割を行うことに合意した。

第1条(不動産)
(不動産の表示)※登記事項証明書のとおり記載
所在:〔〇〇市〇〇町〕
地番:〔〇番〇〕
地目:〔宅地〕
地積:〔〇〇.〇〇㎡〕
(建物)
家屋番号:〔〇番〇〕
種類:〔居宅〕
構造:〔木造〇階建〕
床面積:〔1階〇〇.〇〇㎡、2階〇〇.〇〇㎡〕

第2条(預貯金)
次の預貯金は、相続人 〔取得者氏名〕 が取得する。
〔金融機関名〕〔支店名〕〔普通/当座〕口座番号〔XXXXXXX〕(名義:被相続人〔氏名〕)
〔金融機関名〕〔支店名〕〔普通/当座〕口座番号〔XXXXXXX〕(名義:被相続人〔氏名〕)

第3条(有価証券)
次の有価証券は、相続人 〔取得者氏名〕 が取得する。
〔証券会社名〕〔支店名〕 口座番号〔XXXX〕
〔銘柄名〕〔数量〕株(または口数)

第4条(動産等)
家庭用動産その他一切の遺産(前各条に記載のないもの)は、相続人 〔取得者氏名〕 が取得する。(※ここを「別途協議する」にする運用も多いです。)

第5条(協議外遺産)
本協議書に記載のない遺産が後日判明した場合は、相続人全員で別途協議する。

令和〔年〕〔月〕〔日〕
相続人 住所:〔住所〕氏名:〔氏名〕 印(実印)
相続人 住所:〔住所〕氏名:〔氏名〕 印(実印)
相続人 住所:〔住所〕氏名:〔氏名〕 印(実印)

上記で記載したすべての内容は、あくまで一例にすぎません。

ご家族の状況にや相続の形によって細かい部分は異なりますので、実際に手書きで遺産分割協議書を作成する際は十分にご注意ください。

5.手書きの遺産分割協議書でよくあるミスを防止するためのチェックポイント

手書きの遺産分割協議書でよくあるミスを防止するために、以下の3点には特に気をつけましょう。

  • 筆記用具は慎重に選ぶ
  • 訂正の方法は「二重線+訂正印」か、書き直しか
  • 印鑑証明書と同じ氏名・住所で記載されているか

それぞれ解説します。

5-1.筆記用具は慎重に選ぶ

遺産分割協議書は長期保管や提出が前提になるため、消えるボールペンや鉛筆は避け、油性ボールペン等の改ざんリスクが低い筆記具で作成するのが無難です。

提出先によっては、消せる筆記具を使った書類だと差戻しになることもあるため注意しましょう。

5-2.訂正の方法は「二重線+訂正印」か、書き直しか

手書きによる誤記があった場合、最も安全なのは書き直しです。訂正で対応する場合は、一般に「誤記部分に二重線+正しい内容を追記+訂正印」でおこないます。

訂正印は、原則としてその文書で使用した印鑑(実印)を用いるのが基本です。なお、訂正箇所によっては「全員分の訂正印」まで求められるかどうかは実務上ケース差があるため、迷う場合は書き直しが確実です。

5-3.印鑑証明書と同じ氏名・住所で記載されているか

氏名・住所の表記は、提出先での照合がスムーズになるよう、印鑑証明書や住民票の表記に揃えるのが安全です。表記ゆれがあると、手続き先で追加確認や差戻しになることがあります。

6.手書きの遺産分割協議書が無効になるケース

手書きの遺産分割協議書は、以下のようなケースで無効になる可能性があります。

  • 相続人全員の合意を示す署名・押印がそろっていないケース
  • 判断能力がない相続人からの同意を得ているケース
  • 財産の特定が不十分で内容が曖昧なケース
  • 訂正方法が不適切なケース
  • 遺留分を無視した、公序良俗に反しているケース

一つずつ解説します。

6-1.相続人全員の合意を示す署名・押印がそろっていないケース

遺産分割は原則として相続人全員の合意が必要です。そのため、合意に参加すべき相続人が欠けている場合、遺産分割自体が無効となり得ます。

一方で、「押印が実印でない」などは直ちに無効というより、相続登記などの手続で要求水準を満たせず差戻しになり得る可能性があります。

6-2.判断能力がない相続人からの同意を得ているケース

認知症などで判断能力が衰えている人が参加した協議は、法律上無効になります。遺産の分け方を自分で正しく理解できない状態でサインをしても、それは本人の本当の意思とはみなされないためです。

認知症の相続人がいる場合は、あらかじめ家庭裁判所にて成年後見人を選んで、本人に代わって協議に参加してもらうようにしましょう。

関連記事:相続人の認知症はバレるか?バレるタイミングや隠すリスクとは?

6-3.財産の特定が不十分で内容が曖昧なケース

どの財産のことを指しているのかわからない曖昧な書き方は、遺産分割協議書が無効になる原因となります。「あの土地」や「〇〇銀行のお金」といった書き方では、第三者が財産を特定できないからです。

不動産であれば登記事項証明書をもとに情報を整理し、預金であれば通帳をしっかり確認して、正確な数字や名称を書くのがルールです。

6-4.訂正方法が不適切なケース

訂正方法が不適切だと、法律上ただちに無効とは限りませんが、改ざんの疑いを持たれて受理されない・追加確認が必要になることがあります。

そのため書き損じが発生した場合は、一からの書き直しが最も安全です。 

6-5.遺留分を無視した、公序良俗に反しているケース

法律で決まった最低限の取り分である遺留分を完全に無視した内容は、その後の相続争いを招くリスクがあります。

遺産の分け方は基本的に自由ですが、特定の相続人の取り分をゼロにするような内容は、あとで金銭を請求される恐れがあるため避けましょう。

また、公序良俗に反するような不公平すぎる内容も、法的に認められない可能性があるため注意が必要です。親族間の仲が悪くても、お互いの権利を最低限は尊重するのが、トラブルを未然に防ぐことになります。

関連記事:【相続で揉める家族の特徴13選】揉める原因や対策も解説

7.遺産分割協議書を自分で作成するか、専門家に依頼するか迷ったら

遺産分割協議書は、自分で作成する以外にも、司法書士や弁護士といった専門家に作成を依頼することが可能です。

それぞれの特徴を正しく理解したうえで、最適な方法を選んでください。

7-1.自分で作成するメリット・デメリット

まずは、遺産分割協議書を自分で作成する場合のメリット・デメリットを解説していきます。

7-1-1.自分で作成するメリット

遺産分割協議書を自分で作成する最大のメリットは、専門家への報酬を節約できて費用を最小限に抑えられる点です。また、自分たちの好きなタイミングで作業をすすめられるため、急いで書類を完成させたいときにも適しています。

さらに、家族だけで話し合いをおこなうと、プライバシーを外部に知られる心配もありません。パソコンを使わずに手書きで作成すれば、特別な機材を用意する手間も省けます。

このように、手軽さとコスト面での利点が大きいのが遺産分割協議書を自分で作成する魅力といえます。

7-1-2.自分で作成するデメリット

一方遺産分割協議書を自分で作成するデメリットは、書類に不備があって手続きが差し戻されたり、無効になったりするリスクが高い点です。

法律の専門知識がないと、不動産の地番を間違えたり、必要な項目を書き漏らしたりするケースが少なくありません。せっかく手書きで丁寧に作成しても、一文字の間違いで銀行や法務局から受理を拒否されるのが一番の痛手です。

また、分け方をめぐって相続人同士でトラブルが起きた際、中立的な立場のアドバイスがないため、解決までに長い時間を要するのも懸念点となります。

7-2.司法書士や弁護士に依頼するメリット・デメリット

次に、遺産分割協議書の作成を司法書士や弁護士などの専門家に依頼するメリット・デメリットを解説していきます。

7-2-1.司法書士や弁護士に依頼するメリット

専門家に依頼するメリットは、法的に完璧な書類を作成してもらえるため、手続きが確実に進む点です。

司法書士や弁護士は財産調査からおこなってくれるので、記載漏れによるトラブルを未然に防げます。また、自分たちでは進めにくい話し合いの調整を任せられるのも大きな魅力といえます。

とくに不動産の名義変更や複雑な銀行手続きまで一括で依頼すれば、相続人の負担を大幅に減らすことが可能です。

7-2-2.司法書士や弁護士に依頼するデメリット

専門家に依頼するデメリットとしては、数万から数十万円程度の報酬を支払う必要があるため、金銭的な負担が増える点です。

依頼する専門家や財産の量によって費用は異なりますが、自分たちで作るよりも確実にお金がかかります。また、専門家と面談をおこなったり、必要書類をやり取りしたりする手間が発生するのも理解しておきましょう。

費用をかけてでも安心を買うのか、手間をかけて節約するのかの判断が重要になります。

7-3.ミスのない遺産分割協議書を作りたいなら司法書士への依頼がおすすめ

失敗なく相続の手続きを終えたいのであれば、名義変更のプロである司法書士に依頼するのが最適です。

司法書士は不動産の相続登記や銀行の解約手続きに精通しており、手書きのミスや不備をゼロにできます。弁護士よりも比較的リーズナブルに依頼できるケースが多く、実務的なサポートを求める方には非常に適した相談先といえるでしょう。

また、中立的な立場で書類を作成してくれるので、親族間の公平性も保ちやすくなります。一度の作成で確実に受理される書類を作りたいなら、ぜひ検討してみてください。

8.手書きで遺産分割協議書を書くときのよくある疑問や知っておくべきポイント

手書きで作成する際には、実務上の細かなルールを事前におぼえておくのが成功の秘訣です。パソコン作成と違って、修正が難しいため、書き始める前に正しいマナーを知っておきましょう。

ここでは、手書きで遺産分割協議書を書くときのよくある疑問や、知っておくべきポイントを7つに分けて解説していきます。

8-1.全部手書きでも銀行や法務局で受け付けてもらえる?

手書きかどうか自体で可否が決まるわけではありません。内容が明確で、必要な押印・添付書類が揃っていれば、手書きでも手続きに用いられます。

ただし、相続登記では遺産分割協議書に実印押印・印鑑証明書添付が求められる案内があり、金融機関も同様の実務要件を設けていることが多いので、提出先のルールに合わせて準備しましょう。

8-2.文字を間違えてしまった場合、修正テープで修正しても大丈夫?

修正テープ・修正液は改ざんを疑われやすく、提出先で差戻しになるおそれがあるため避けるのが無難です。最も安全な修正方法は、書き直しです。

誤記部分の訂正で対応する場合は、「二重線+正しい内容を追記+訂正印」でおこなってください。

8-3.用紙に指定はある?

用紙の種類に決まりはありませんが、長期保存に適したA4サイズの白紙を使用するのがベストです。チラシの裏や破れやすい紙だと、スキャンが難しかったり受理を拒否されたりする可能性があります。

文房具店などで売っている厚手のコピー用紙やレポート用紙を選ぶと、見た目も整い、破れにくいので安心です。

8-4.「署名」だけ自筆にして、財産の内容は代筆しても良い?

本文(財産の記載部分)が代筆・印刷であっても、相続人全員が内容を確認し合意していれば、直ちに無効になるものではありません。実務上は、最終的に相続人全員の合意が明確に確認できることが重要です。

ただし、提出先での本人確認・照合の観点から、少なくとも署名(または記名)・押印は、各相続人が責任をもっておこなうのが安全です。 

8-5.2ページ以上になる場合、契印(割印)は必要?

契印(割印)は、法律上の必須要件とまではされていませんが、文書の一体性(差替え防止)という観点から、可能な限りおこなうのが無難です。

また、法務局の相続登記関連資料では、契印に言及して注意喚起されているため、登記に使う予定がある場合は特に入れておくと安心といえます。

参考:登記申請手続のご案内 (相続登記①/遺産分割協議編) |法務省民事局

8-6.ホチキスは使ってもいい?

複数枚の書類をまとめるときにホチキスを使うのは、全く問題ありません。むしろバラバラにならないように、左側を2カ所ほどホチキスでしっかり止めるのが一般的です。

ただし、ホチキスで止めただけではページの抜き取りを防げないため、先ほど説明した契印を忘れずにおこなってください。さらに丁寧な仕上げにしたいなら、製本テープを使って袋とじにするのをおすすめします。

8-7.何部作成すべき?

基本は「原本1通」でも成立しますが、相続登記・銀行・証券など複数の手続きを並行する場合、原本の持ち回りで時間がかかることがあります。

実務上は、相続人の人数分(または手続きの数に応じた部数)を用意し、各通に相続人全員が署名押印して原本として保管する方法がよく採られています。

※提出先には写しで足りる場合もありますが、要件は提出先により異なる点には注意してください。

9.まとめ

遺産分割協議書を手書きで作成する際は、筆記用具の選定や財産の正確な特定、そして相続人全員の署名と実印による押印といった基本ルールさえ守れば、公的な手続きもスムーズに進めることができます。

まずは本記事のチェックリストを活用し、下書きから始めてみましょう。一つひとつのステップを丁寧に進めることが、円満な相続を実現するための第一歩となります。

その中で、「財産の種類が多くて書ききれない」「不備がないかどうしても不安」と感じる場合は、無理をせず司法書士などの専門家に相談することも検討してみてください。特に不動産の登記が絡む場合は、プロのチェックを受けることで二度手間のリスクをゼロにできます。

司法書士法人・行政書士鴨川事務所では、遺産相続のご相談をいつでもお受けしております。相続で不安に感じていることや悩みなど、1人で抱えこまずにぜひ私たちへご相談ください。

監修者 池部 翔司法書士・行政書士

司法書士法人・行政書士鴨川事務所 代表

相続手続きは複雑で、自己判断により重大なトラブルを招くことがあります。当事務所では、丁寧に相談を受けたうえで、専門知識を活かし、最適な解決策の提案から実行までをサポートしています。

京都司法書士会・京都府行政書士会所属

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