遺産相続

遺産分割協議書を作成しないとどうなる?起こりうる6つのトラブル例

2025.07.29

ご家族が亡くなり、相続人同士で遺産の分け方を話し合い、円満に合意ができたとき、「わざわざ遺産分割協議書を作らなくても良いのでは?」と考えていませんか。

しかし、その判断は大変危険です。口約束だけでは、不動産の名義変更も、銀行預金の解約も、一切手続きを進めることができません。

この記事では、遺産分割協議書を作らなかった場合に起こる具体的なトラブルと、後悔しないための正しい作り方を、司法書士が分かりやすく解説します。

遺産分割協議書の作成を控えている方や不安のある方は、ぜひ最後までご覧ください。

1.遺産分割協議書とは?

遺産分割協議書とは、相続人全員でおこなった遺産の分け方を話し合う遺産分割協議において、参加者全員が合意した内容を法的な証拠として明確に記録した契約書のことです。

故人が作成した遺言書がない場合は、遺産分割協議書が、不動産の名義変更や預貯金の解約といった、あらゆる相続手続きで「相続人全員の公式な合意書」として必要不可欠な書類となります。

相続トラブルを防ぎ、円滑に手続きを進めるための、最も重要な書類の一つです。

2.遺産分割協議書を作らないとどうなるのか?起こりうる6つのトラブル例

遺産分割協議書を作成せずに相続人同士の口約束のみで終わらせてしまうと、以下のようなトラブルが起きる可能性があります。

  • 不動産の名義変更ができない
  • 預貯金の解約・名義変更ができない
  • 相続税の申告期限に間に合わない
  • 自動車や株式の名義変更ができない
  • トラブルがあった際に相続人の責任になる
  • 後日相続人同士で揉める原因になる

具体的に解説していきます。

2-1.不動産の名義変更ができない

遺産分割協議書がないと、亡くなった方名義の実家や土地を、相続した人の名義に変更する「相続登記」の手続きが、法務局で一切できません。

不動産の名義変更には、誰がその不動産を相続したのかを、相続人全員が合意しているという客観的な証明が不可欠です。遺産分割協議書は、まさにそのための公的な証明書類となります。

遺産分割協議書がなければ、不動産を売却することも、担保に入れて融資を受けることもできず、法的に所有権を主張できない状態が続きます。

関連記事:土地が亡くなった人の名義のままにするリスクについて徹底解説

2-2.預貯金の解約・名義変更ができない

故人の預貯金を解約して相続人がお金を受け取る際にも、遺産分割協議書は原則として必要です。トラブル防止の観点から、金融機関はたとえ相続人の一人に対しても、相続人全員の合意がなければ預金の払い戻しに絶対に応じてくれません。

遺産分割協議書に相続人全員の実印が押されていることで、金融機関は初めて安心して手続きを進めることができます。遺産分割協議書がなければ、故人の口座は凍結されたまま、誰もお金を引き出せない状態が続きます。

2-3.相続税の申告期限に間に合わない

遺産分割協議がまとまらず、遺産分割協議書が作成できないと、相続税の申告・納付で重要な税金の優遇措置が受けられず、結果的に損をする可能性があります。

相続税の申告期限は、故人の死亡後10カ月以内です。もし遺産分割協議が長引いて、この期限までに分割が決まらない場合、配偶者の税額を大幅に軽減する「配偶者控除」などの特例が適用できません。そしてその状態で、一旦法定相続分で申告・納税しなければならないのです。

スムーズな遺産分割協議と書類作成が、余計な税負担を避けることにも繋がります。

2-4.自動車や株式の名義変更ができない

故人名義の自動車や株式といった財産を相続人が引き継ぐ際の名義変更手続きにおいても、遺産分割協議書は必要です。

運輸支局(自動車)や、証券会社(株式)なども、金融機関と同様に、相続人全員の合意を客観的に証明する書類として遺産分割協議書の提出を求めます。

遺産分割協議書がなければ、これらの財産を売却したり、処分したりすることができず、法的に所有権を確定させることができません。

2-5.トラブルがあった際に相続人の責任になる

遺産分割協議書を作成しておかないと、あとから故人の借金が発覚した場合などに、誰がどれだけの責任を負うのかが不明確になり、相続人間のトラブルに発展します。

書面での合意がないと、「言った、言わない」の水掛け論になり、法的な解決が困難になります。遺産分割協議書は、誰がどの財産をどのような割合で相続したかを明確にするため、債務などの責任分担も明らかにする役割を持ちます。

相続人全員の責任の範囲を確定し、将来のリスクに備えるためにも、遺産分割協議書の作成は不可欠です。

2-6.後日相続人同士で揉める原因になる

遺産分割協議書を作成しないことは、将来相続人同士が「争族」と呼ばれる深刻なトラブルに発展する最大の原因となります。口約束だけで済ませてしまうと、あとになってから「やはり、あの分け方は不公平だった」「もっともらえるはずだった」といった不満が、他の相続人から出てくる可能性があります。

一度作成した遺産分割協議書は、法的な拘束力を持つ契約書であり、簡単には覆せません。全員の合意を書面という形で残すことが、家族間の円満な関係を将来にわたって守ることに繋がります。

関連記事:【相続で揉める家族の特徴13選】揉める原因や対策も解説

3.遺産分割協議書の作成が必要・不要なケース

遺産分割協議書の作成が必要かどうかは、遺言書の有無や相続人の数、そして遺産の分け方によって決まります。

相続人全員の「合意の証明」が必要な場面では、原則として作成が不可欠です。逆に、その必要がない特定のケースでは作成を省略できます。ご自身の状況がどちらに当てはまるか、ここで明確に理解しておきましょう。

3-1.遺産分割協議書を作る必要があるケース

遺産分割協議書が必要なのは、以下のようなケースです。

  • 遺言書がない場合
  • 法定相続分とは異なる分け方をする場合
  • 不動産の名義変更(相続登記)をする場合
  • 相続のトラブルを防ぎたい場合
  • 法定相続分通りに遺産分割する場合

それぞれ解説します。

3-1-1.遺言書がない場合

亡くなった方が遺言書を遺しておらず、相続人が2人以上いる場合は、遺産分割協議書の作成が絶対に必要です。

遺言書がない相続では、誰が、どの財産を、どれだけ相続するのかを決める指針が存在しません。そのため、相続人全員の話し合いによって、その分け方をゼロから決める必要があります。

相続人全員の合意内容を証明する唯一の公的な書類が、遺産分割協議書となるのです。

3-1-2.法定相続分とは異なる分け方をする場合

法律で定められた「法定相続分」とは異なる割合で遺産を分ける場合には、遺産分割協議書の作成が必須です。「長男が実家を全て相続する代わりに、次男は預貯金を多くもらう」というように、柔軟な分け方をする場合、その合意が相続人全員の総意であることを、書面で明確に示す必要があります。

法定相続分と異なる分け方を、第三者に対して法的に有効だと証明するために、この書類が必要になります。

3-1-3.不動産の名義変更(相続登記)をする場合

故人名義の不動産を、相続人の名義に変更する「相続登記」を法務局に申請する際、遺産分割協議書は原則として必須の添付書類となります。

遺言書がない場合、法務局はどの相続人がその不動産を取得したのかを、客観的な書面で確認する必要があります。相続人全員の実印が押された遺産分割協議書がなければ、登記申請は受理されません。

不動産を相続する限り、遺産分割協議書の作成は避けて通れない手続きです。

関連記事:相続不動産の名義変更は自分でできる?自分でするメリット・デメリット

3-1-4.相続のトラブルを防ぎたい場合

将来にわたって、相続に関する親族間のトラブルを防ぎたいと考えるなら、遺産分割協議書を作成しておくべきです。

遺産分割協議書は、一度作成すると、強力な法的拘束力を持つ「契約書」です。口約束だけで済ませてしまうと、数年後に「そんな約束はしていない」「やはり分け方が不公平だ」といった争いが再燃する可能性があります。

相続人全員の合意を書面という形で確定させることが、家族間の円満な関係を守るための、最も確実な方法です。

3-1-5.法定相続分通りに遺産分割する場合

相続人全員が、法律で定められた「法定相続分」の通りに遺産を分けることに合意した場合でも、実際の手続きでは遺産分割協議書の作成が必要になることがほとんどです。

口約束だけでは、本当に全員が法定相続分での分割に合意したのかどうか、金融機関や法務局といった第三者が確認できません。そのため、手続きの窓口では、「法定相続分で分割する」という内容の遺産分割協議書の提出を求められるのが実情です。

理論上は遺産分割協議書が不要でも、手続きをスムーズに進めるためには書類の作成が必要と理解しておきましょう。

3-2.遺産分割協議書の作成が不要なケース

一方遺産分割協議書の作成が不要なのは、以下のようなケースです。

  • 遺言書がある場合
  • 相続人が自分1人しかいない場合
  • そもそも遺産が全くない場合

一つずつ解説します。

3-2-1.遺言書がある場合

故人が法的に有効な遺言書を遺している場合は、原則として遺産分割協議書は不要です。

相続は、遺言書の内容に従って進められるのが大原則です。不動産の名義変更や預貯金の解約といった手続きも、遺産分割協議書の代わりに遺言書を提出することでおこなえます。遺言書が、遺産分割協議書と同じ役割を果たしてくれます。

関連記事:遺言書があれば遺産分割協議書はいらない?例外ケースや手続きの手順

3-2-2.相続人が自分1人しかいない場合

故人の相続人が法律上あなた1人しかいない場合、遺産分割協議書の作成は不要です。

遺産分割協議は、複数の相続人がいる場合に、その分け方を話し合うためのものです。相続人が一人しかいなければ、全ての遺産をその一人が相続することが、法律上自動的に決まります。話し合う相手がいないため、協議そのものが存在せず、協議書も必要ありません。

3-2-3.そもそも遺産が全くない場合

亡くなった方に、預貯金や不動産といったプラスの財産が全くない場合は、遺産分割協議書の作成は不要です。

遺産分割協議は、あくまで「遺産」を「分割」するための話し合いです。分けるべき財産そのものが存在しなければ、協議をおこなう意味がありません。ただし、あとから財産が見つかる可能性も考慮し、借金などマイナスの財産の有無だけは、念のため確認しておくべきでしょう。

4.リスクを回避する遺産分割協議書の作り方

法的に有効な遺産分割協議書を作成するために、以下3つの手順を踏んでください。

  • 相続人と遺産を正確に調査する
  • 相続人全員で遺産の分け方を話し合う
  • 合意内容を書面にし全員で署名・実印を押す

順を追って解説します。

4-1.①相続人と遺産を正確に調査する

遺産分割協議を始める大前提として、まず「誰が相続人なのか」と「何が遺産なのか」を、戸籍謄本や登記簿謄本といった公的な書類にもとづいて正確に調査・確定させる必要があります。

相続人が一人でも欠けていると、その遺産分割協議は無効になります。また、財産の全体像が分からなければ、公平な分割はできません。

故人の出生から死亡までの戸籍を全て集めて相続人を特定し、財産目録を作成する作業が、全ての土台となります。

4-2.②相続人全員で遺産の分け方を話し合う

相続人と財産の全体像が確定したら、相続人全員が参加して具体的な遺産の分け方を話し合う「遺産分割協議」をおこないます。

この協議の最も重要なルールは、必ず「相続人全員」でおこない、「全員が合意」することです。一人でも不参加の人がいたり、合意内容に反対する人がいたりすると、協議は成立しません。全員が納得できる分け方を、冷静に話し合って見つけていく必要があります。

4-3.③合意内容を書面にし全員で署名・実印を押す

話し合いで全員の合意がまとまったら、その内容を証明するために「遺産分割協議書」という法的な書面を作成し、相続人全員が署名して実印を押印します。「全員の署名」と「実印の押印」、そして全員分の「印鑑証明書」の添付が、その書類が相続人全員の総意であることの公的な証明となるのです。

遺産分割協議書の作成が完了したら、不動産の名義変更や預貯金の解約といった、各種相続手続きを進められるようになります。

5.遺産分割協議書を自分で作るのは不安なら司法書士への相談がおすすめ

遺産分割協議書の作成をご自身でおこなうことも可能です。ですが、法的な要件を満たした、後々トラブルにならない完璧な書類を確実に作成したいのであれば、専門家である司法書士に相談するのが最もおすすめです。

司法書士は、書類作成のプロであると同時に、相続登記(不動産の名義変更)の専門家でもあります。協議書の作成からその後の不動産の名義変更までを、一貫してスムーズに進めることができます。

専門家のサポートを受けることが、時間的・精神的な負担を軽減し、円満な相続を実現するための、最も確実な方法といえるでしょう。

6.まとめ

この記事では、遺産分割協議書を作らない場合に生じる相続手続き上の具体的な支障や、将来的な親族トラブルのリスクについて詳しく解説しました。

遺産分割協議書は、単なる相続手続きのための「面倒な紙」ではありません。相続人全員の合意を法的に証明し、故人の大切な財産を次の世代へ円滑に引き継ぐための「パスポート」であり、将来の「争族」を防ぐ「契約書」なのです。

円満な相続を実現するための最後の仕上げとして、必ず作成するようにしましょう。もし作成に不安があれば、司法書士などの専門家へ相談することをおすすめします。

司法書士法人・行政書士鴨川事務所では、遺産分割協議書の作成をはじめとした、相続に関するお問い合わせを随時受け付けております。相続で不安に感じていることや悩みなど、1人で抱えこまずにぜひ私たちへご相談ください。

監修者 池部 翔司法書士・行政書士

司法書士法人・行政書士鴨川事務所 代表

相続手続きは複雑で、自己判断により重大なトラブルを招くことがあります。当事務所では、丁寧に相談を受けたうえで、専門知識を活かし、最適な解決策の提案から実行までをサポートしています。

京都司法書士会・京都府行政書士会所属

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