相続登記

【勝手に相続登記された】放置するリスクや原因別の対処法

2025.08.01

遺産分割を進めようとしたところ、ほかの相続人に勝手に相続登記されるといったトラブルに巻き込まれる恐れがあります。今後の生活を考えると、登記されたままの状態で放置するのは望ましくありません。

この記事では、勝手にされた相続登記を取り戻す方法について詳しく紹介します。具体的な手続きと期間の目安も取り上げるので、不動産を相続する予定のある方は、ぜひ最後まで読んでみてください。

1.そもそも相続登記とは?

相続登記とは、相続で不動産を引き継いだときに名義変更をする手続きのことです。不動産は動産と異なり、所有者が変わったらその旨を登記という形で公示しなければなりません。

相続登記をする際には、不動産の所在地を管轄する法務局で手続きをおこないます。

1-1.2024年4月1日以降義務化されている

2024年4月1日より、相続登記を義務付けるように法改正されました。日本の各地で起こっている空き家問題を少しでも是正するためです。相続で不動産を引き継いだ人は、3年以内に登記を済ませなければなりません。

登記をしない状態で放置していると、10万円以下の過料が科される恐れもあります。過料は刑罰ではありませんが、法律違反には変わりないので必ず登記を済ませましょう。

関連記事:相続登記の義務化による罰則・過料とは?罰則を受けないための方法も解説

2.勝手に相続登記されてしまう3つのケース

まれな事例ではあるものの、他人によって勝手に相続登記されてしまうケースもあります。主な例として挙げられるのが以下の3点です。

  • 法定相続分の割合で登記されるケース
  • 債権者によって代位登記されるケース
  • 遺産分割協議書や遺言書の偽造によって登記されるケース

それぞれどのような場合に起こりうるかをまとめます。

2-1.法定相続分の割合で登記されるケース

遺言や遺産分割協議ではなく、法定相続分に従って相続する場合は注意が必要です。たとえば親の不動産を、兄弟2人で相続したとしましょう。

民法のルールに従うと、不動産の持分を兄弟2人で2分の1ずつ相続します。この場合は相続人の一人が、共有名義として登記することも可能です。そのため自分は不動産を引き継ぎたくなかったにもかかわらず、名義人となってしまう恐れがあります。

2-2.債権者によって代位登記されるケース

債権者によって、代位登記されるケースも考えられます。以下のようなケースです。

  • 被相続人(亡くなった方)の債権者に代位登記されるパターン
  • ほかの相続人の債権者に代位登記されるパターン

それぞれ解説します。

2-2-1.被相続人(亡くなった方)の債権者に代位登記されるパターン

亡くなった方自身に借金があった場合に、その債権者から勝手に代位登記されるパターンです。

まず、相続が発生すると、相続人は、亡くなった方の不動産だけでなく、借金も引き継ぐことになります。しかし、相続人が不動産の名義変更(相続登記)をしないままでいると、債権者(お金を貸した側)は、その不動産を差し押さえて、貸したお金を回収することができません。

そこで、債権者は、自らの権利を守るために、相続人に代わって(代位して)、その不動産を「亡くなった方」から「相続人」の名義へと、強制的に相続登記を申請します。そして、登記が完了し、不動産が法的に相続人のものとなったあとで、その不動産を差し押さえるという流れです。

2-2-2.ほかの相続人の債権者に代位登記されるパターン

相続人のうちの一人に、個人的な借金がある場合も代位登記されるリスクがあります。

たとえば、兄弟2人で不動産を相続したものの、まだ遺産分割協議も相続登記もしていない状況の場合、法律上その不動産は兄弟2人が法定相続分(2分の1ずつ)で共有している状態となります。

もし、兄に借金があれば、兄の債権者は、その「2分の1の持分」を差し押さえたいと考えます。そのために、債権者は、まず兄弟2人の共有名義で、法定相続分通りの相続登記を代位しておこないます。

これにより、兄が不動産の持分を所有していることが公的に確定し、債権者はその兄の持分だけを差し押さえることが可能になるという流れです。

2-3.遺産分割協議書や遺言書の偽造によって登記されるケース

本来、相続登記をするには遺産分割協議書や遺言書の提出が求められます。そのため基本的に第三者が勝手に手続きするリスクは低いものの、これらの書類が偽造される恐れもあります。

当然ながら、遺産分割協議書や遺言書を偽造する行為は犯罪です(有印私文書偽造罪)。このような行為が見られたら、弁護士に依頼したうえで法的に争うことをおすすめします。

3.勝手にされた相続登記を放置するリスク

勝手に相続登記をされたまま、放置していると今後の生活において以下のようなリスクが発生します。

  • 権利証が発行されない
  • 他の相続人との関係が修復不可能なほど悪化する
  • 不動産が第三者に売却され取り戻せなくなる

それぞれ解説します。

3-1.権利証が発行されない

勝手に相続登記されてしまうリスクの一つとして、権利証が発行されないことが挙げられます。権利証は、自身が申請人(登記名義人)であることを証明するための書類です。

権利証を取得できない状態でいると、不動産を売却する際に手間がかかってしまいます。誰か一人が申請人となるのではなく、相続人全員で申請するのが賢明です。

3-2.他の相続人との関係が修復不可能なほど悪化する

相続登記が勝手にされていると、他の相続人との関係が修復不可能なほど悪化してしまいます。そもそも被相続人の財産をどう分配するかは、遺言や遺産分割協議で決めるのが基本です。

相続人のなかには固定資産税や管理費などのコストがかかるため、不動産を相続したくないと考える人もいるでしょう。全員の意見をしっかりと聞かないと、相続人間でトラブルに発展する恐れがあります。

関連記事:【相続で揉める家族の特徴13選】揉める原因や対策も解説

3-3.不動産が第三者に売却され取り戻せなくなる

勝手に相続登記されてしまうと、不動産が第三者に売却されたときに取り戻すのが難しくなります。相続した不動産は、一般的に他の相続人と共有する状態にあるためです。

兄と弟の2人で不動産を相続した場合、兄は自分の持分(2分の1)であれば自由に売却できます。兄が不動産を売却したことに対し、弟が買主に返還請求をしても、自己の持分しか取り戻せません。

つまり法律上は買主と弟の2人で、不動産を共有する状態になってしまいます。権利も含めてすべて取り戻すのは難しく、複雑な法律関係が形成されます。

4.【原因別】勝手にされた相続登記を取り戻すための具体的な対処法

勝手に相続登記をされてしまうと、他の相続人の権利に支障をきたすため、迅速に対処しなければなりません。ここでは相続登記を取り戻すための対処法を、原因別に解説します。

4-1.法定相続分で登記された場合:遺産分割協議と登記申請をおこなう

法定相続分で登記された場合は、遺産分割協議と登記申請をするのが賢明です。上述したとおり、基本的に相続登記をするには遺産分割協議書などの書類が必要となります。

遺産分割協議をしたうえで登記申請をおこなえば、相続登記のやり直しができます。遺産分割協議には期限がありませんが、相続人全員の同意が必要となるため、なるべく早めに連絡を取り合いましょう。

4-2.代位登記された場合:登記の修正手続きをおこなう

債権者によって代位登記がされてしまっても、相続人同士の合意にもとづき「登記の修正手続き」をおこなうことで、正当な権利を取り戻せます。

まず、相続人全員で遺産分割協議をおこない、「誰がその不動産を最終的に相続するのか」を正式に決定し、「遺産分割協議書」を作成します。この協議書を使い、法務局で登記の修正手続きをおこないます。具体的には、法定相続分で登記された共有状態から、協議で決まった単独所有者へ「所有権移転登記」を申請する形です。

遺産分割協議は相続開始時に遡って効力が生じるため、この修正が法的に認められます。ただし、債権者との関係で問題が複雑化しやすいため、必ず弁護士など専門家への相談が不可欠です。

4-3.書類を偽造された場合の対処法:相続登記抹消請求訴訟をおこなう

遺言書や遺産分割協議書が偽造されたときは、相続登記抹消請求訴訟で対処するのが一般的です。訴訟を提起するには、登記原因証明情報や登記申請書といった必要書類を揃えなければなりません。

また偽造は犯罪にあたるため、刑事告訴もあわせて検討しておくのが賢明です。筆跡鑑定をするなど、訴訟に勝てるよう証拠を用意しておきましょう。

5.登記を取り戻す手続きの流れと期間の目安

登記を取り戻すには、一般的に以下のステップを踏みます。

  1. 登記事項証明書で現状を正確に把握する
  2. ほかの相続人と話し合う
  3. 法的手続きをとる

各ステップで必要な手続きと期間の目安についてみていきましょう。

5-1.①登記事項証明書で現状を正確に把握する

まずは登記事項証明書を発行してもらい、現在の手続きがどのようになっているかを把握しましょう。登記事項証明書は、以下の方法で取得できます。

  • 法務局の窓口で手続きする
  • 郵送してもらう
  • オンラインで手続きする

法務局の窓口で手続きすれば、即日での取得が可能です。郵送やオンラインで発行すると、約1週間の期間を要します。ただしオンラインで手続きしたあと、窓口で交付する場合は即日で交付してくれます。

5-2.②ほかの相続人との話し合う

登記事項証明書で現状を確認したら、今後どのように対処するかをほかの相続人と話し合いましょう。相手の勘違いにより、相続登記を進めてしまった可能性もあるためです。

また話し合いで解決できれば、相続人同士の関係が悪化することを防ぎやすくなります。相続人同士の話し合いでは数日で解決するケースもあるものの、揉めたときは数週間程度かかることも考えられます。

5-3.③交渉がまとまらない場合は法的手続きへ(調停・訴訟)

いくら話し合っても解決しない場合は、調停や訴訟などの法的手続きも検討するとよいでしょう。具体的には、次の手続きが挙げられます。

法的手続き内容
遺産分割調停調停委員会が間に入り、話し合いでの解決を目指す
相続登記抹消請求訴訟勝手にされた相続登記を抹消する
不当利得返還請求訴訟不動産に関する権利を取り戻す
損害賠償請求訴訟損害賠償金を支払わせる

調停や訴訟は一般的に半年〜1年程度の期間がかかるため、根気強く対応しなければなりません。ここまでくると、どうしても個人で対応するのは難しいため、司法書士や弁護士といった専門家への相談も検討してください。

6.勝手に相続登記されるのを防止する方法

勝手に相続登記されるのを防ぐうえで、不正登記防止申立を活用する方法があります。ただしこの制度を使うには、一定の条件を満たしていないといけません。

  • 権利証や印鑑証明書を紛失した、盗難された恐れがある
  • 被害届や印鑑証明書の廃止の届出を提出した
  • (届出していない場合)緊急を要する

また相続人が勝手な行動に出ないよう、全員とコミュニケーションをとることが大切です。自分でも相続に関するさまざまな知識を身につけつつ、被相続人の財産の状況を把握しておきましょう。

7.【まとめ】勝手にされた相続登記は諦めずに司法書士への相談がおすすめ

勝手に相続登記をされたとしても、簡単に諦めてはいけません。まずは司法書士に相談し、登記を取り戻す対処法について考えていきましょう。

相手の勘違いなどのように、事件性がない場合は話し合いで解決することもあります。しかし権利証の盗難や遺言書の偽造がみられたら、民事訴訟や刑事告訴も検討してもよいでしょう。

監修者 池部 翔司法書士・行政書士

司法書士法人・行政書士鴨川事務所 代表

相続手続きは複雑で、自己判断により重大なトラブルを招くことがあります。当事務所では、丁寧に相談を受けたうえで、専門知識を活かし、最適な解決策の提案から実行までをサポートしています。

京都司法書士会・京都府行政書士会所属

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