相続を知らせないのはNG?所在不明の相続人に連絡をとる方法

遺産分割協議によって相続財産を分配するときは、相続人に対し相続が発生したことを知らせないといけません。しかし相続人のなかに所在不明の方がおり、連絡がとれないケースもあるでしょう。

この記事では、所在不明の者に対して相続を知らせないことで起きる問題や、知らせないことが可能かどうかを紹介します。併せて、相続人に連絡をとる方法についてもまとめます。相続手続きが前に進まず、困っている人はぜひ参考にしてください。

1.相続が始まったことを相続人に知らせないのは原則NG

相続が発生しているにもかかわらず、相続人に知らせないのはNGとされています。相続権は、被相続人が死亡すると自動的に発生するためです。どういった対応が必要になるかを詳しく解説していきます。

1-1.遺産分割協議は相続人全員の参加が必要となる

被相続人が遺言を残さなかった場合、遺産分割協議によって相続分が決められます。遺産分割協議の内容が有効に成立するには、相続人全員が参加しなければなりません。つまり連絡をしていない相続人がいると、話し合いが前に進まなくなる恐れがあるのです。

分配方法についてまとめた遺産分割協議書には相続人全員の署名捺印が必要ですが、実印の使用が義務づけられています。したがって連絡をするときは、市区町村役場で印鑑登録が必要になる旨も伝えるとよいでしょう。

1-2.遺言執行者は相続人への通知義務がある

被相続人は、遺言の内容を実現するために遺言執行者を指定できます。仮に自分が遺言執行者に選ばれた場合、ほかの相続人に対して遺言の内容を通知しなければなりません。自筆証書遺言だけではなく、公正証書遺言でも通知義務は発生するので注意が必要です。

この義務を怠ってしまうと、遺言について知らされなかった相続人から損害賠償を請求される恐れがあります。自身が遺言執行者に選ばれた場合は、しっかりと責任を果たさないといけません。

2.相続を知らせないことで生じる問題

相続人に相続の発生を知らせないと、手続きにおいてさまざまな支障が出やすくなります。どのようなリスクが生じうるかを解説していきます。

2-1.相続手続きが前に進まない

相続の発生を知らせないために起こりうる問題の一つは、相続手続きが前に進まなくなることです。先程も説明しましたが、遺産分割協議は相続人全員が参加しないと効力を発揮しません。

仮に被相続人が不動産を所有している場合、遺産分割協議のあと相続登記をする必要があります。したがって手続きを進めるためにも、まずは相続人に事実を伝えないといけません。

2-2.相続税の申告が遅れてしまう

多額の財産を相続するときは、相続税が加算されるケースもあります。仮に相続税の対象となった場合、相続の発生を知った日の翌日から10カ月以内に確定申告をしないといけません。

申告期限に間に合わなかったら延滞税に加え、過少申告加算税や無申告加算税などが課せられる可能性も高まります。こういったリスクを避けるためにも、できる限り早くほかの相続人に連絡を入れましょう。

2-3.管理者に相続財産を使い込まれる

相続の手続きが進まない間に、相続財産を管理している人が勝手に使い込む恐れもあります。無論、ほかの相続人の同意を得ずに相続財産を使い込む行為は違法です。

しかし使い込まれた証拠を残しておかないと、実際に取り戻すのは難しいでしょう。訴訟や調停に発展するなど、新たなトラブルに巻き込まれるリスクも高まります。早めに遺産分割をおこない、財産の使い込みを未然に防止することが大切です。

2-4.対象の相続人から訴訟される

仮に特定の相続人に連絡を入れず、遺産分割を進めたとしましょう。自分たちで遺産を分けたとしても、相続人全員の同意がなければ法的には何の効力も生まれません。連絡を入れていない相続人から指摘されたら、遺産分割協議はやり直しになります。

このように相続の連絡をせずに手続きを進めても、結局は振り出しに戻るだけです。むしろ遺産分割調停や無効確認訴訟を提起されるなど、余計なトラブルを生んでしまいます。

3.所在不明の相続人と連絡をとる方法

相続人全員と連絡を取ろうと思っても、所在不明の人がいることも考えられます。どこに住んでいるかわからない相続人も、相続権を有するのが原則です。

したがって相手の居場所を突き止めて、相続の発生を知らせる必要があります。ここでは、所在不明の相続人を調査する方法について紹介します。

3-1.相続人の戸籍附票を調査する

所在不明の相続人を探す手がかりになる書類の一つが、戸籍附票です。戸籍附票は市区町村役場で取得でき、相手の住所地が記載されています。本籍地を管轄する市区町村役場で保管されているので、最初に相手の本籍地を調べないといけません。

本来戸籍附票は、委任状がないと発行できない書類です。とはいえ所在不明の場合に委任状はもらえるわけがないので、第三者請求によって入手する形となります。第三者請求をするときは、相続手続きで使う旨を市町村役場に対し証明する必要があります。

3-2.居場所を特定できた場合は訪問してみる

戸籍附票から相手の居場所を特定できたら、直接自宅に訪問するとよいでしょう。遺産分割協議書を送付して署名捺印を要求するだけでは、相手に無視される可能性も高まります。直接会って、遺産分割協議に参加してほしい旨を伝えましょう。

3-3.メール・手紙・SNSも活用する

自宅に直接訪問しても応じてくれないときはメールや手紙、SNSを活用しましょう。メールやLINEで連絡をとれば、相手も気軽に対応しやすくなります。連絡先がわからず、自宅の場所が判明しているときは手紙でのやり取りがおすすめです。

仮に連絡先および自宅が判明しなくとも、SNS(XやInstagram)で検索すればヒットする可能性もあります。フォロー申請をして、DMを送ってみてもよいです。応じてくれる可能性は低いですが、方法の一つとして押さえてください。

3-4.不在者財産管理人を選任する

戸籍附票で住所地を突き止めたにもかかわらず、そこに住んでいる気配がないときは、不在者財産管理人を選任する方法があります。選任するには、申立書と以下の添付書類を家庭裁判所に申述しないといけません。

  • 不在者の戸籍謄本・戸籍附票
  • 不在者財産管理人(候補)の戸籍附票・住民票
  • 不在者の財産を証明できる書類
  • 所在不明であることを証明できる書類
  • 不在者との利害関係(相続関係)を証明する書類
  • 収入印紙(800円分)、連絡用切手

不在者財産管理人に選任されたら、財産目録の作成や家庭裁判所への報告が必要です。誰に任せるか、家族内で入念に話し合いましょう。

3-5.居場所を特定できなければ探偵を雇う

不在者の居場所を特定できなければ、探偵を雇うといった選択肢もあります。自分で探すことに大きな負担を感じる人は、人探しの実績が豊富な探偵事務所に依頼してみましょう。

人の居場所を突き止めるには、ある程度の専門的な知識や経験が求められます。素人だけで実践するよりも、プロに頼んだほうが発見できる確率も高まるでしょう。

3-6.生死不明のときは失踪宣告も検討する

調査しても居場所がつかめず、生死すらもわからない場合は失踪宣告も検討してください。失踪宣告とは、生死不明の者を死亡したと認定する制度です。不在者は相続権を失うため、遺産分割協議に参加する義務も消滅します。

ただし失踪宣告において、死亡したと認められるには期間が設けられています。普段の日常において所在がわからなくなった人は、生死不明の状態が7年間続くことが条件です。

上記の条件に該当しても、失踪宣告は自動的に効力を発揮するわけではありません。相続人をはじめとする利害関係人が、家庭裁判所に申述することで成立します。

関連記事:失踪宣告した人が生きていた場合の手続きとは?相続や生活への影響を解説

4.連絡しても無視されるときの対処法

不在者の連絡先が判明したものの、電話やメールを無視されることもあるでしょう。遺産分割協議を進めるには、相手が応じてくれるように説得する必要があります。どのように対処すればよいか、ポイントを2つ紹介します。

4-1.相続手続きに応じないときのデメリットを伝える

まずポイントの一つとして挙げられるのが、相続手続きに応じないときのデメリットを伝えることです。連絡を無視する理由として、相続について深く理解していないケースもあるでしょう。

このような人に対しては、遺産分割協議への参加が必須であり、対応しないと遺産分割調停などで手続きがさらに煩雑になることを伝えましょう。メールや手紙で伝えるだけではなく、可能であれば直接会って話をするのをおすすめします。

4-2.遺産分割調停を検討する

何度も説得しているのに相手が応じないときは、遺産分割調停も検討しましょう。遺産分割調停とは、家庭裁判所を間に立たせて相続トラブルの解決を目指す手続きです。こちらの手続きを活用すれば、問題の相手に対して通知してくれます。

遺産分割調停のメリットは、相手と直接交渉する必要がない点です。それぞれが別室で待機し、顔も合わせないので感情的にならず話を進められます。

5.相続手続きは司法書士に相談しよう

相続手続きで困っているのであれば、司法書士へ気軽に相談してください。書類作成や登記申請を中心に、相続手続きのプロが皆さんをサポートします。

さらに請求額140万円以下の簡易訴訟であれば、トラブルに関する相談業務も提供しています。相続手続きを一人でするのが不安な人は、司法書士を頼ってみるのがおすすめです。

6.まとめ

被相続人が遺言を残さず、遺産分割協議で相続分を決めるときは、相続人全員の参加が必要です。相続人全員に連絡をとり、遺産分割協議ができる準備をしないといけません。いつまでも相続の発生を知らせていないと、相続人同士でトラブルになるリスクも高まります。

相手の所在地がわからないために、連絡がとれない場合は調査が必要です。自力での調査が難しいのであれば、司法書士などの専門家の力を借りましょう。

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