相続登記

相続不動産の名義変更は自分でできる?自分でするメリット・デメリット

2024.10.18

相続不動産の名義変更は、自分でもできる手続きです。しかし素人が自分でしようと思っても、ミスなく完了させるのは極めて難しいでしょう。

この記事では相続不動産の名義変更をしたい人に向けて、以下の内容を解説しています。

  • 相続不動産の名義変更を勧める理由
  • 名義変更を自分でするメリットおよびデメリット
  • 自分での手続きの進め方
  • 司法書士に依頼したほうがよい理由

記事を読めば、相続不動産の名義変更に関する知識を身に付けられます。このような手続きをする可能性がある人は、ここで解説する内容をしっかりと押さえてください。

1.相続不動産の名義変更を勧める理由

仮に不動産を相続しても、名義変更が法的に義務付けられているわけではありません。しかし名義変更をしておくことで、今後の生活にもよい影響を与えます。手続きをなぜしたほうがよいのかを解説しましょう。 

1-1.相続不動産の所有者が誰かを客観的に証明するため

名義変更を勧める理由のひとつが、誰が相続不動産の所有者なのかを客観的に証明するためです。

不動産は動産と異なり、簡単に引き渡しができる財産ではありません。そのため家や土地を譲渡された人は、登記することで初めて自身が所有者であると第三者に証明できます。

仮に登記が済んでいない状態で親族が第三者に不動産を譲渡した場合、その相手が先に登記すると自分が所有者であると主張できません。

相続不動産の名義変更は、自身の財産を守る行為にもつながります。

1-2.相続不動産は登記しないと売却が難しい

相続不動産の名義変更をしないと、基本的に売却は難しくなります。

民法においても、2024年4月より相続登記が義務化されました。不動産を取得してから3年以内に登記を済ませないと、10万円の過料が発生します。刑罰ではないので前科こそ付かないものの、義務化された登記を意図的に怠るのは望ましくありません。

また名義変更をしなければ、客観的に見て不動産の所有者は被相続人のままとなります。自身の権利を主張できるようにするには、相続が完了したことを登記しなければなりません。

関連記事:【相続登記義務化以降】相続登記をしないとどうなる?リスクを解説

2.相続不動産の名義変更を自分でする際の手順

ここまで説明したように、基本的には名義変更を専門家に依頼したほうが賢明です。しかし費用等の問題により、自分で進めたいと思う人も少なからずいるでしょう。

ここでは自らで名義変更する人向けに、手続きの手順を以下の流れに沿って解説します。

1.現在の名義人をチェックする
2.ほかの相続人が誰かを確認する
3.各種証明書を取得する
4.必要書類を作成する
5.必要書類を全て取り揃えたうえで書類に応じて署名捺印をおこなう
6.法務局に登記申請書と必要書類を提出する

一つずつ見ていきましょう。

2-1.①現在の名義人をチェックする

まずは相続不動産について、現在の名義人が誰になっているかを確認してください。相続人の知らない間に、不動産が別の人物に売却されている可能性もあるためです。

権利関係を確認するために、法務局で登記簿謄本を取得しましょう。ただし登記簿には過去のデータも記載されるので、被相続人の氏名の有無のみならず権利が譲渡されていないかを確認することが大切です。

また被相続人が、自身の両親から名義を変更しないで不動産を譲り受けたケースもあります。その場合は一度「被相続人」の名義に変更し、そこから相続人自身へと変えないといけないので注意してください。

関連記事:【勝手に相続登記された】放置するリスクや原因別の対処法

2-2.ほかの相続人が誰かを確認する

相続不動産の名義変更をするには、ほかの相続人の存在も無視できません。相続人に該当する人は、不動産に対しても相続分の範囲内で権利を主張できるためです。

誰が相続人に該当するかは、次の順位に基づいて決められます。

順位法定相続人(法定相続割合)
第一順位子(配偶者1/2、子1/2)
第二順位直系尊属(配偶者2/3、直系尊属1/3)
第三順位兄弟姉妹(配偶者3/4、兄弟姉妹1/4)

また被相続人が再婚の場合、前妻との間に子どもがいたらその子も相続の対象です。被相続人の全ての戸籍謄本を集め、ほかに相続人がいないかを確認しましょう。

2-3.③各種証明書を取得する

相続登記の申請には、戸籍謄本以外にも、相続人全員の「印鑑証明書」や、不動産を相続する人の「住民票」、そして不動産の評価額を証明する「固定資産評価証明書」など、多くの証明書類が必要です。これらの書類は、市区町村役場や都税事務所などで取得できます。

それぞれ有効期限があるもの(印鑑証明書など)や、取得に時間がかかるものもあるため、計画的に収集を進めてください。事前に法務局のWebサイトにて必要書類のリストを確認し、漏れなく準備しましょう。

2-4.④必要書類を作成する

公的な証明書を集めるのと並行して、相続登記の申請に必要となる、遺産分割協議書や登記申請書といった書類をご自身で作成する必要があります。これらの書類は、法律で定められた形式に従って、正確に作成しなければなりません。

ここでは、とくに重要な3つの書類の作成について解説します。

2-4-1.遺産分割協議書を完成させる

相続人が把握できたら、全員が参加したうえで遺産分割協議書を作成します。

たとえ遠方に住んでいる相続人がいても、放棄しない限りは遺産分割協議に参加する義務があります。全員が揃わないと、遺産分割協議書は完成できないので注意してください。

また認知症を患っている相続人は、本人の参加が認められていません。後見人が誰もいないと、遺産分割協議ができなくなることもあります。

2-4-2.相続関係説明図を作成する

収集した戸籍謄本の内容をもとに、亡くなった方と、相続人全員の関係性が一目で分かる家系図のような「相続関係説明図」を作成します。(ただし必須ではありません)

相続関係を提出すると、法務局に提出した大量の戸籍謄本の原本を、登記完了後に返却してもらうことが可能です。

もし提出しないと、戸籍謄本の原本は返却されないため、他の相続手続きで再度、取得し直す手間がかかります。手間はかかりますが、作成するメリットは非常に大きいです。

2-4-3.登記関係書類を作成する

名義変更をするには、法務局へ登記申請書を提出しなければなりません。様式は法務局でもらえるほか、インターネットからのダウンロードも可能です。

また書面以外にも、オンラインでの申請も認められています。ただしオンライン申請はシステムのダウンロードや電子署名ソフト、ICカードリーダーなどの準備が必要です。

登記申請書には、次の事項を記さなければなりません。

  • 登記の目的と原因
  • 被相続人の名前
  • 相続人の情報
  • 添付書類
  • 課税価格・登録免許税
  • 不動産の情報

登記事項証明書や固定資産評価証明書なども参考にしながら記入してください。 

2-5.⑤必要書類を全て取り揃えたうえで書類に応じて署名捺印をおこなう

名義変更は、登記申請書のほかに以下の必要書類も取り揃えないといけません。

  • 登記済証または登記識別情報通知書
  • 固定資産評価証明書
  • 被相続人の戸籍謄本や除籍謄本
  • 相続人の戸籍謄本
  • 被相続人の住民票(除票)・相続人の住民票
  • 遺産分割協議書
  • 家系図(自ら作成)
  • (ある場合は)遺言書

法務局に提出する前に、収集した全ての証明書類と、作成した遺産分割協議書や登記申請書などを一つのファイルにまとめ、最終チェックをおこなってください。

登記申請書や遺産分割協議書、そして委任状(もしあれば)など、押印が必要な書類に、相続人全員の署名と、実印(または認印)が正しく押されているか、最後の確認をします。

書類の不備は、申請が却下される最大の原因です。提出前のこの最終確認が、非常に重要です。

また、ここで取り上げた書類以外にも、何か追加で必要になるものも出てくる可能性があります。法務局にしっかりと確認しつつ、漏れのないように準備しましょう。

2-6.⑥法務局に登記申請書と必要書類を提出する

登記申請書が完成し、必要書類も整ったら法務局に提出してください。窓口に赴くほか、郵送での提出も可能です。

書類を提出してから、約1週間後に登記完了証が発行されます(窓口交付が原則)。郵送の場合は登記完了証も送付されるため、提出の際に返信用封筒と切手も準備してください。

3.相続不動産の名義変更を自分でするメリット・デメリット

相続不動産の名義変更を自分ですることには、どのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか。それぞれ解説します。

3-1.相続不動産の名義変更を自分でするメリット

相続不動産の名義変更を自分でするメリットは、出費を抑えられる点です。もし専門家へ依頼すると、手続きに必要な費用に加えて報酬を支払う必要があります。誰に依頼するかで金額も変わりますが、一般的な費用相場は5万円〜15万円です。

一方で名義変更を全て自分で完了させると、必要書類の発行費用や印紙代程度しか発生しません。そのため出費にかかる負担を大幅に軽減できます。

3-2.名義変更を自分でするのはデメリットのほうが多い

費用の負担を軽減できるとはいえ、名義変更を自分でするのはデメリットのほうが多いといえます。正しく手続きができず、今後の生活に思わぬ支障が出るケースもあるので注意が必要です。主に考えられるデメリットは、以下の3つです。

  • 専門的知識が求められる
  • 多大な時間を要してしまう
  • 登記漏れが発生するリスクもある

それぞれ解説していきます。 

3-2-1.専門的知識が求められる

まず自分で名義変更するデメリットとして挙げられるのが、専門的知識を必要とする点です。日常生活で登記する機会はあまりないので、どう手続きすればよいかわからない人もいるでしょう。そのため手続きする前に、自らが登記についてしっかりと勉強しなければなりません。

ただし民法や不動産登記法などは、理解するのが難しい法律のひとつです。普段の生活を過ごす中で、これらの法律や自治体の手続きについて勉強するのは負担も大きくなります。

2-2-2.多大な時間を要してしまう

相続不動産の名義変更を自分で進めようとすると、書類作成や手続きに時間を取られてしまいます。書類に不備があれば、何度も法務局や役場に足を運ばないといけません。

これらの公的機関は、一般的に窓口で手続きできるのは平日です。仕事も休まなければならず、普段の生活にも支障が出る恐れもあります。

司法書士に依頼すれば、書類作成や必要書類の提出もある程度は代行してもらえます。時間に余裕のない人は、しっかりとプロへの依頼も検討しましょう。

2-2-3.登記漏れが発生するリスクもある

自分で相続不動産の名義変更をするうえで、特に注意しなければならないのが登記漏れです。

たとえば実家が一戸建ての場合、家屋や敷地のみならず道路を所有しているケースもあります。このような私道は、被相続人も自身が所有しているのを忘れていることも珍しくありません。手続き時点では法務局の職員も細かくチェックしないため、誰も気づかずに登記漏れが発生してしまいます。

相続不動産を売却する際に、私道の登記漏れで手続きが滞ることもあるので注意が必要です。

4.相続不動産の名義変更を自分でできないケースもある

相続不動産の名義変更は、以下のようなケースにおいて自分でできないことがあります。

  • 兄弟などの傍系相続人の戸籍を収集する必要がある場合
  • 遠方の法務局で登記申請を行う必要がある場合
  • 相続や権利関係、不動産の状況が複雑な場合

それぞれ解説します。

4-1.兄弟などの傍系相続人の戸籍を収集する必要がある場合

亡くなった方にお子様がおらず、ご両親もすでに他界している場合は、兄弟姉妹が相続人となります。このケースでは戸籍謄本の収集が極めて煩雑になるため、専門家への依頼が賢明です。

このケースの場合、相続人を確定させるために、亡くなったご本人の「出生から死亡まで」の戸籍に加え、亡くなった方の「ご両親の出生から死亡まで」の戸籍謄本も全て集める必要があります。本籍地が各地に点在していると、これらの書類を全て集めるだけで、数カ月を要することも珍しくありません。

4-2.遠方の法務局で登記申請を行う必要がある場合

相続する不動産が、ご自身の居住地から遠く離れた場所にある場合、ご自身で手続きをおこなうのは物理的な負担が大きいため、おすすめできません。

相続登記は、その不動産の所在地を管轄する法務局に申請する必要があります。もし書類に不備があった場合、平日の日中に、何度も遠方の法務局へ足を運んで修正の対応をしなければなりません。

交通費や移動時間を考えると、現地の司法書士に依頼したほうが、結果的にコストも手間も少なく済むことがほとんどです。

4-3.相続や権利関係、不動産の状況が複雑な場合

相続人が多数いる、相続登記が未了のまま次の相続が発生している(数次相続)、あるいは権利関係が複雑な不動産である、といったケースは、ご自身での対応は極めて困難です。

たとえば、祖父名義のままの不動産を孫が相続する場合や、相続人の中に行方不明者や認知症の方がいる場合、あるいは土地の境界が不明確な場合などです。これらの複雑な事案では、高度な法的知識と、専門家としての実務経験が不可欠となるため、必ず弁護士や司法書士にご相談ください。

5.不動産の名義変更が難しいと感じたら無理せず専門家を頼ろう

相続不動産の名義変更は、できる限り司法書士に頼るのをおすすめします。確かに一定の費用もかかってしまいますが、相続は自分たちの将来にも関わる大事な手続きです。必要書類を集めるだけでも大変であり、時間や労力も削られてしまうでしょう。

加えて多くの司法書士は、知識だけではなくキャリアも豊富です。いくら基本的な知識を覚えても、それだけで対応できるほど簡単な手続きではありません。

特に地上権や抵当権が設定されていると、これらを抹消しないと相続しても売買できなくなることもあります。このような難しいケースに対処するにも、専門的知見に基づくアドバイスが重要です。

ただし司法書士を頼るときも、相続不動産の状況を自身でもある程度は押さえてください。不動産の状況をしっかりと把握していれば、将来的に子どもが引き継ぐときに手続きの負担が軽減しやすくなります。

6.まとめ

相続不動産の名義変更を自分でするのもよいですが、メリットと比べて多くのデメリットがあります。仮に登記漏れが生じると、今後の生活に支障が出るかもしれません。

自分で名義変更をするには、登記に関する知識を身につけることが大切です。法務局のWebサイトも確認しながら、必要書類を自らが取り揃えないといけません。

名義変更の手続きをするのが難しいと感じたら、知識と経験が豊富な司法書士への依頼も検討しましょう。

司法書士法人・行政書士鴨川事務所では、不動産の名義変更をはじめとした登記に関するお問い合わせを随時受け付けております。相続で不安に感じていることや悩みなど、1人で抱えこまずにぜひ私たちへご相談ください。

監修者 池部 翔司法書士・行政書士

司法書士法人・行政書士鴨川事務所 代表

相続手続きは複雑で、自己判断により重大なトラブルを招くことがあります。当事務所では、丁寧に相談を受けたうえで、専門知識を活かし、最適な解決策の提案から実行までをサポートしています。

京都司法書士会・京都府行政書士会所属

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