遺産相続

相続で印鑑を押してくれないときのリスクや対処法

2025.07.29

遺産分割協議書で相続分を決めるには、相続人全員の署名捺印が必要ですが、一部の相続人が印鑑を押してくれなくて困っている人もいるでしょう。印鑑をもらえないと相続手続きが進まず、自分の生活にも支障をきたす恐れがあります。

この記事では、相続人が印鑑を押してくれないときの対処法について解説します。遺産分割協議によって分配方法を決めようとしている人は、ぜひ記事を参考にしてください。

1.相続で印鑑が必要になる手続き

相続で印鑑が必要になる手続きとして、以下のケースが該当します。

  • 遺産分割協議書の作成
  • 不動産の相続登記
  • 預貯金または株式の名義変更・解約
  • 相続税の申告

それぞれの場面について詳しく解説していきます。

1-1.遺産分割協議書の作成

まず印鑑が必要になる手続きの一つが、遺産分割協議書の作成です。遺産分割協議は、被相続人が遺言を残していなかったり、遺言書と違った形で財産を分配したりするときに実施されます。

話し合いの内容が効力を発揮するには、相続人全員が参加したうえで署名捺印をしなければなりません(相続放棄した人を除く)。誰か一人でも欠けている状態では、遺産分割は正式には成立しないので注意が必要です。

1-2.不動産の相続登記

不動産の相続登記においても、印鑑が必要になることもあります。印鑑が必要になるのは、遺産分割協議で不動産の相続方法を決めたときです。遺産分割協議書には相続人全員が署名捺印をしますが、全員分の印鑑証明書を相続登記で添付しなければなりません。

一方で法定相続分に従ったり、遺言書の内容に基づいたりする場合は印鑑証明書が必要ありません。併せて家庭裁判所で遺産分割調停をしたときも、印鑑証明書の提出は不要とされています。

関連記事:土地を亡くなった人の名義のままにするリスクについて徹底解説

1-3.預貯金または株式の名義変更や解約

預貯金または株式の名義変更や解約においても、印鑑証明書の提出が求められる場合があります。一般的に預貯金口座や証券口座は、死亡すると凍結されます。相続人が引き継ぐのであれば、証明できる書類を用意しなければなりません。

遺言書をもとに名義変更する場合は、印鑑証明書の提出も不要です。しかし遺産分割協議書に基づいた手続きでは相続人全員分、調停や審判で名義変更する際には相続する人の印鑑証明書が必要です。

1-4.相続税の申告

2021年4月より、相続税の申告書類への印鑑は不要となっています。そのため遺言書に基づいて、相続税を申告する際には相続人が印鑑を押す必要はありません。

一方で遺産分割協議書に基づくときは、相続人全員から署名捺印をもらったうえで提出しなければなりません。配偶者の税額の軽減、小規模宅地等の特例を受けるときは、相続人全員分の印鑑証明書も添付しましょう。

2.相続人が相続手続きで印鑑を押してくれない理由

相続人が印鑑を押してくれないのは、相続手続きに納得のいかない部分があるためです。一人ひとりの意見や考えを確認し、全員から署名捺印をもらえるように対策を講じないといけません。印鑑を押してくれない理由として、考えられることを紹介していきます。

2-1.遺産分割の方法に不満がある

まず考えられる理由が、遺産分割の方法に不満があるためです。たとえば、A・B・C3人の相続人で遺産分割協議をしました。そこで被相続人の財産のほとんどをAとBが相続したら、Cが納得いかずに署名捺印しないことが考えられます。

全員が自分本位に遺産分割方法を提案したら、話が前に進まなくなるでしょう。譲歩できる部分があれば、ほかの相続人の意見にも耳を傾けないといけません。どうしても理不尽な要求をされた場合は、法的根拠を示して説明する必要があります。

2-2.遺産の状況について信用を置けない

ほかの相続人に対して遺産の状況を詳しく説明しないと、印鑑を押してくれないリスクも高めてしまいます。説明を全然受けていない側からすれば、よくわからない状態で署名捺印することに不安を抱くでしょう。

そのため証明書を提示するなど、財産の状況を明確に公開しないといけません。自分は公平に分配するつもりでいても、情報を公開しなければ遺産隠しを疑われてしまいます。不信感を持たれないようにするには、相続人間の情報共有が大切です。

2-3.特別受益や寄与分に納得がいかない

相続人が印鑑を押さないのは、特別受益や寄与分に対して納得がいっていないケースも考えられます。

たとえば被相続人が生きている間、自分だけが住宅資金として100万円近くのお金をもらったとしましょう。法定相続分に従って分配すれば、ほかの相続人は不満に感じるはずです。

ほかにも自分の弟が、親の介護に従事していたことで寄与分を請求する可能性もあります。特別受益や寄与分があるときは、金額を確定させたうえで遺産分割協議に臨まないといけません。

2-4.相続手続きに協力してくれない

相続人が印鑑を押してくれない理由として、単純に相続手続きを面倒くさがっているケースもあります。遺産分割協議書に同意するには、印鑑登録をしなければなりません。市役所で簡単にできる手続きですが、「忙しい」ことを理由に後回しにする人もいるでしょう。

どうしても本人が印鑑登録をしない場合は、自分が代理人として手続きしたほうが賢明です。代理人が手続きできるようにするには、当該相続人に委任状を書いてもらい、市役所に持って行く必要があります。

関連記事:相続手続きに協力してくれない人がいる場合の対処法

3.印鑑を押してくれない時に起こりうる問題

遺産分割協議で分配方法を決める場合、相続人全員から印鑑をもらわないと前に進みません。日常生活においても、以下のような問題が発生する恐れもあります。

  • 被相続人の残した財産がいつまでも使えない
  • 相続人間の権利関係が複雑になる
  • 相続財産が使い込まれる恐れもある
  • 相続税の申告が間に合わなくなる

一つずつ解説していきます。

3-1.被相続人の残した財産がいつまでも使えない

印鑑を押してもらえないと、被相続人の残した財産がいつまでも使えません。預貯金は10年以上使わない状態が続くと、休眠口座(休眠預金)となり利用する際に制限がかかるリスクもあります。

相続財産に不動産がある場合、費用や固定資産税は通常どおり支払わないといけません。つまり、不動産を活用できないのに出費だけが発生する状態となります。

3-2.相続人間の権利関係が複雑になる

印鑑を押してくれない状態が続くと、相続人間の権利関係が複雑になってしまいます。

たとえば遺産分割協議でもめている間に、相続人の一人が亡くなったと仮定します。この場合、亡くなった相続人の配偶者や子どもも、自分たちの相続分に影響するため協議に参加するかもしれません。

早く遺産分割協議を済ませないと、どんどん長期化する恐れがあります。

3-3.相続財産が使い込まれる恐れもある

相続財産は、相続人の一人が代表して管理するケースも少なくありません。遺産分割協議が長引いてしまうと、管理者が勝手に財産を使い込むリスクも高まります。

民法では相続財産のような共有物を、ほかの相続人の同意なしに使い込むのは禁じています。しかし使い込まれた財産を回収するには、交渉や裁判を経なければならず、結果的に負担が大きくなってしまうでしょう。

3-4.相続税の申告が間に合わなくなる

相続税の申告期限は、相続開始を知った日の翌日から10カ月以内です。遺産分割の有無にかかわらずカウントが進むため、なるべく早いうちに協議を済ませて申告に取りかからないといけません。

申告期限に間に合わなければ、追徴課税が発生して税負担も増える恐れがあります。期限内に相続税の申告をするためにも、相続人全員から署名捺印をもらえるように努めましょう。

4.相続で印鑑を押してくれない時の対処法

相続で印鑑を押してくれない相続人がいるときは、以下の方法を試してみてください。

  • 相続人同士で話し合いをする
  • 財産の内容を相続人全員に提示する
  • 相続人に印鑑登録を促す
  • 弁護士に依頼して間に入ってもらう
  • 弁護士に相談して遺産分割調停を検討する

それぞれ解説します。

4-1.相続人同士で話し合いをする

印鑑を押してくれない主な原因は、遺産分割の内容に納得がいっていないためです。納得してもらうには、相続人同士で話し合う必要があります。

裁判や調停まで発展すると、もめ事もさらに大きくなります。負担を減らすためにも、話し合いだけで決着がつくようにしましょう。

関連記事:【相続で揉める家族の特徴13選】揉める原因や対策も解説

4-2.財産の内容を相続人全員に提示する

相続人が遺産の内容を把握できていない場合は、相続財産にかかる資料を提示してください。不動産の評価明細書や預金通帳(取引明細書)が、証拠書類として有効です。

相続人に協力を仰ぐには、自分自身で積極的に書類を集めるようにしましょう。

4-3.弁護士に依頼して間に入ってもらう

話し合いをしても、相手が納得いかなければ印鑑は押してくれません。説得力を高めるには、弁護士に間に入ってもらうのをおすすめします。

弁護士は法律の観点から、遺産分割協議書に署名捺印しないリスクを詳しく説明してくれます。相続人が手続きに応じてくれる可能性も高まるでしょう。

4-4.弁護士に相談して遺産分割調停を検討する

相続人同士の話し合いだけで決着がつかないのであれば、遺産分割調停も検討しましょう。遺産分割調停とは、調停委員会が間に入ってトラブル解決を図る制度です。調停委員会が中立の立場から判断してくれるので、公平に決着をつけられるといったメリットがあります。

弁護士に相談すると、遺産分割調停を有利に進めるためのアドバイスをもらえます。併せて相続人が複数人いれば、遠方の裁判所に赴くこともあるかもしれません。出席が難しいときは、弁護士に代理で対応してもらうことも可能です。

5.まとめ

相続人が印鑑を押してくれないと、遺産分割協議の話が進まなくなります。相続財産を使えないだけではなく、相続税の申告が間に合わないといったリスクも高まるでしょう。

印鑑を押してくれない原因として、遺産分割の内容に納得がいかないことが挙げられます。相続人全員の意見に耳を傾けつつ、譲歩できる部分がないかを探すようにしましょう。

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監修者 池部 翔司法書士・行政書士

司法書士法人・行政書士鴨川事務所 代表

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京都司法書士会・京都府行政書士会所属

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