遺言書

公正証書遺言に納得がいかないときの対処法と遺言が無効になる5つのケース

2025.08.01

亡くなった親が公正証書遺言を残していたものの、その内容に納得いかないで悩んでいる方もいるでしょう。効力を争うこと自体はできますが、無効であるのを立証するのは簡単ではありません。

この記事では、公正証書遺言に納得いかないときの対処法を詳しく解説します。手続きの流れや注意点も紹介するので、遺言の効力を争いたい方はぜひ参考にしてください。

1.公正証書遺言の効力が強く覆しにくい理由

公正証書遺言の内容に納得がいかなくても、その効力を覆すことは非常に難しいとされています。自筆証書遺言に比べて、形式の不備や、遺言者の意思能力といった点で、あとから争う余地がほとんどないのが現実です。

その「覆りにくさ」の理由を、公正証書遺言の2つの大きな特徴から詳しく見ていきましょう。

1-1.公証人が作成に関与し原本が保管されたものだから

公正証書遺言が強力なのは、作成段階で、公証人が遺言者の本人確認と、正常な判断能力(意思能力)の有無を、直接確認しているからです。

公証人は、遺言者が誰かに無理やり書かされていないか、内容をきちんと理解しているかを見極めたうえで、法的に完璧な書面を作成します。また、作成された遺言書の原本は、偽造や紛失のリスクがない公証役場で厳重に保管されます。

この作成プロセスの厳格さが、「本人が確かに望んだ内容だ」という、極めて強い証拠力となるのです。

1-2.家庭裁判所の検認手続きが不要だから

公正証書遺言は、相続開始後に家庭裁判所で内容を確認する「検認」という手続きを経る必要がないことも、その信頼性の高さを示しています。

検認は、主に自筆証書遺言が、本当に本人が書いたものか、偽造や変造がされていないかを保全するための手続きです。公正証書遺言は、公証人がその作成に関与することですでにその信頼性が担保されているため、検認は不要とされています。

このように、裁判所のチェックを省略できるほど、その作成プロセス自体が公的に信用されているのです。

関連記事:公正証書遺言に従わない場合にリスクはある?従わなくても良いケースとは?

2.公正証書遺言の内容に納得いかないときの対処法

では、公正証書遺言の内容に納得がいかないときはどうすればいいのでしょうか。以下3つの対処法がおすすめです。

  • 遺留分侵害額請求で最低限の遺産を確保する
  • 遺産分割協議をおこなう
  • 遺言の無効を主張する

それぞれどういった手続きをとればよいか解説していきます。

2-1.対処法①遺留分侵害額請求で最低限の遺産を確保する

まず方法の一つとして挙げられるのが、遺留分侵害額請求で最低限の資産を確保することです。被相続人からみて兄弟姉妹以外の相続人であれば、以下の割合で遺留分が認められます。

相続人の続柄(被相続人からみて)遺留分の割合
配偶者、子相続分×2分の1
直系尊属相続分×3分の1

相続権を失うなどの事情がない限りは、1円も遺産がもらえないことはありません。

2-2.対処法②遺産分割協議をおこなう

遺言が残されていても、相続人および受遺者全員の同意があれば遺産分割協議をすることが可能です。遺言執行者を定めている場合は、その者の同意もあわせて必要になります。

とはいえ相続人のなかには、公正証書遺言書のとおりに相続したい人もいるでしょう。遺産分割協議でやり直しを求めるのは、想像以上に難しいことを押さえてください。

関連記事:遺言書があれば遺産分割協議書はいらない?例外ケースや手続きの手順

2-3.対処法③遺言の無効を主張する

遺言書の作成が正しい手続きに沿ってなされていなければ、無効を主張するといった方法もあります。ただし公正証書遺言は、証人2人の立ち会いのもとで公証人によって作成されます。

専門家が作成に関与するため、自筆証書遺言と比べると無効になる確率は低いでしょう。

3.公正証書遺言でも無効になる5つのケース

公正証書遺言でも無効になるケースは、以下の5通りが考えられます。

  • 遺言者に意思能力がなかった
  • 遺言が詐欺や強迫によって作成された
  • 証人に不適格な人が立ち会っていた
  • 遺言の内容が公序良俗に反する
  • その他作成手続きに不備があった

どのような理由で無効になるか、詳しくみていきましょう。

3-1.遺言者に意思能力がなかった

成年被後見人の場合、判断能力が回復したのち、医師2人以上の立ち会いがないと遺言を残せません。成年被後見人であることを隠している疑いがあったら、その証拠を集めるようにしましょう。

ここでポイントとなるのが、遺言書が作成された当時の診療録や看護記録を用意できるかです。プライバシーに関わる書類ではあるものの、遺言者の親族であれば開示請求が認められます。

3-2.遺言が詐欺や強迫によって作成された

詐欺や強迫によって作成された遺言は、基本的に効力を発揮しません。詐欺は他人を欺く行為、強迫は他人を脅す行為のことです。

しかし詐欺や強迫があったのを証明するのは簡単ではありません。これらを主張して、公正証書遺言の無効を争うのは現実的ではないでしょう。

3-3.証人に不適格な人が立ち会っていた

以下に該当する者は、公正証書遺言の作成に証人として立ち会えません。

  • 未成年者
  • 推定相続人またはその配偶者・直系血族
  • 受遺者またはその配偶者・直系血族
  • 公証人の配偶者または4親等内の親族
  • 公証役場の証人

被相続人の子が証人として立ち会っていたら、推定相続人にあたるため公正証書遺言の無効を主張できます。

3-4.遺言の内容が公序良俗に反する

公正証書遺言が無効になる例の一つが、公序良俗に反している場合です。公序良俗は「公の秩序」「善良な風俗」を略した言葉であり、社会秩序や道徳といった意味を持ちます。

具体例として財産を不倫相手に譲渡するケースでは、公序良俗に反するとみなされる可能性があります。ただし公序良俗は価値観にも左右されるため、無効になるかを自分で判断するのは難しいでしょう。

3-5.その他作成手続きに不備があった

ここで取り上げたケース以外にも、手続きに不備がある場合も考えられます。とくに公正証書遺言で起こりうるのが、口授を欠くことです。

公正証書遺言は、公証人に遺言の内容を口頭で述べなければなりません。発話が難しいなどの事情がない限りは、メモや身振り手振りで内容を伝えるのはNGとされています。

4.公正証書遺言の無効を主張する際の流れ

公正証書遺言の無効を主張するには、以下のステップを踏む必要があります。

  1. 無効である証拠を集める
  2. 相続人間で話し合う
  3. 遺言無効確認調停を申し立てる
  4. 遺言無効確認訴訟を提起する

それぞれのプロセスごとに、注意すべきポイントをまとめます。

4-1.遺言書が無効である証拠を集める

まずは公正証書遺言書が無効である証拠を集めなければなりません。主に証拠となる書類は、以下の3点です。

  • 医療機関のカルテや介護記録
  • 日記やメール
  • 証言

これらを集める際のポイントや集め方について解説します。

4-1-1.医療機関のカルテや介護記録

遺言能力が疑わしい場合は、医療機関のカルテや介護記録を集めましょう。書類を集める際には、被相続人が通院していた医療機関に対して開示請求をします。

開示請求から書類が届くまで2〜3週間程度かかるので、早めに手続きするのが得策です。

4-1-2.生前の言動を示す日記やメール

生前の言動を示す日記やメールも、証拠の一つとなる可能性があります。たとえば日記やメールの内容から、精神上の理由で遺言能力に疑いがあるときです。

遺産整理をする際に、これらもあわせて確認してみるとよいでしょう。

4-1-3.他の相続人や関係者からの証言

ほかの相続人や関係者からの証言により、遺言が無効になるケースも考えられます。話を聞くときは、なるべくボイスレコーダーや動画などで記録を残すようにしてください。

仮に訴訟を提起するのであれば、関係者への証人尋問も検討するのが望ましいでしょう。

4-2.相続人間で話し合う

遺言に納得がいかなくても、調停や訴訟をする前にまずは相続人間で話し合いましょう。無駄な費用をかけず、解決できる可能性もあるためです。

話し合う際には、感情的にならず自分の意見を冷静に伝えてください。相続人全員から同意が得られたら、遺産分割協議で遺言とは異なる形で財産を分配できます。

4-3.遺言無効確認調停を申し立てる

話し合いで解決しないときは、遺言無効確認調停を申し立てましょう。調停とは、家庭裁判所の職員(調停委員会)が間に入り、話し合いで解決を目指す方法です。

相手とは直接会うことはなく、調停委員会に自分の意見を伝えてもらいます。感情的な議論になりにくくなる点がメリットです。

ただし遺言の無効は、基本的に偽造があったかを争います。偽造の有無を調停で証拠づけることは困難であり、たいていは訴訟に移って解決を目指します。

4-4.遺言無効確認訴訟を提起する

調停で解決しない場合は、遺言無効確認訴訟を提起します。相続問題では一般的に調停前置主義が採用されているため、「調停→訴訟」の順番で手続きがなされることを押さえてください。

訴訟の提起先は、地方裁判所(請求金額が140万円以下であれば簡易裁判所)です。裁判は長期に及びやすく、判決が下されるまで2年程度かかるので注意しましょう。

5.「遺留分請求」と「遺言無効」のどちらを選ぶべきか判断するポイント

遺言書の内容に納得がいかない場合、「遺留分請求」と「遺言無効主張」のどちらを選ぶべきかは、遺言が無効だと証明できる「証拠の有無」と、あなたが「何を望むか」によって決まります。

「遺言無効主張」は遺言全体を覆すハイリスク・ハイリターンな方法、「遺留分請求」は最低限の権利を確保するローリスク・ローリターンな方法です。両者の性質の違いを理解し、ご自身の状況に合った、より有利な手段を選択することが重要です。

5-1.証拠が十分で根本解決したいなら「遺言無効主張」

遺言者が遺言作成時に正常な判断能力を失っていたことを示す、医師の診断書や介護記録といった客観的な証拠が十分にあり、遺言全体を白紙に戻したいと考えるなら、「遺言無効主張」を選択すべきです。

遺言無効の主張が認められれば、不公平な遺言書は最初からなかったことになり、法定相続分にもとづいた遺産分割協議をおこなえます。これにより、遺留分以上の財産を得られる可能性があるでしょう。

ただし、公正証書遺言の無効を証明するハードルは極めて高いという点には十分に注意が必要です。

5-2.スムーズな解決を望み最低限の権利を確保したいなら「遺留分請求」

遺言を無効にするほどの決定的な証拠はないものの、法律で保障された最低限の相続分だけでも確実に確保し問題を早期に解決したいと考えるなら、「遺留分請求」を選択すべきです。

遺留分の請求は、遺言の有効性を争うのではなく、「遺言は有効だけれども、私の最低限の取り分はください」と主張する権利です。証拠がなくても、あなたが法定相続人(兄弟姉妹を除く)である限り、法律で認められた権利のため、主張が認められる可能性は非常に高いです。

確実性を重視し、最低限の権利を守るための堅実な方法といえます。

6.公正証書遺言に納得いかないときの注意点

公正証書遺言の無効を争う際には、以下のポイントに注意しなければなりません。

  • 遺言の偽造や破棄はNG
  • 預貯金払い戻しの取り消しは不可
  • 相続登記のやり直し
  • 修正申告

それぞれの内容について詳しくみていきましょう。

6-1.遺言の偽造や破棄はしない

公正証書遺言の内容に納得がいかなくても、遺言を偽造または破棄してはいけません。勝手に偽造・破棄すると民事訴訟を提起されるほか、私文書偽造罪に問われる可能性があるので注意しましょう。

不法行為はせず、きちんとした手続きに基づいて対処することが大切です。

6-2.預貯金払い戻しの取り消し請求はできない

公正証書遺言のとおりに預貯金が払い戻されたら、原則として取り消しの請求はできません。たとえば被相続人の預貯金が、相続人の一人に払い戻されたとしましょう。

仮に遺産分割協議するのであれば、その相続人に対して持ち戻しを請求しなければなりません。相続人が預貯金を勝手に使用した場合は、不当利得返還請求や損害賠償請求を検討してください。

6-3.相続登記をやり直さなければいけない可能性がある

不動産を公正証書遺言によって相続したときは、遺言が無効になったらやり直しをする可能性もあります。たとえば元々は兄が不動産を引き継ぐように書かれていたものの、遺言の効力を失ったあとに弟が相続するケースです。

登記は手続きが複雑であるため、司法書士に相談したうえで進めるのをおすすめします。

6-4.相続税を修正申告が必要になる可能性がある

公正証書遺言の無効を主張するなかで、相続税にも注意しなければなりません。遺産分割が完了していると、すでに相続税を納めている方もいるでしょう。

しかし公正証書遺言が無効になり、相続税の金額に変更が生じたら修正申告をする必要があります。ただし税金のルールは複雑であるため、税理士に相談することをおすすめします。

7.【まとめ】公正証書遺言に納得いかないときは司法書士に相談しよう

公正証書遺言に納得がいかなくても、一人で争うことは望ましくありません。余計にトラブルが大きくなり、解決するまで時間がかかってしまう恐れがあります。

公正証書遺言の効力を争うときは、まず司法書士に相談しましょう。司法書士は登記のプロでもあるため、相続登記を含めてさまざまな手続きをサポートしてくれます。

司法書士法人・行政書士鴨川事務所では、相続に関するお問い合わせを随時受け付けております。相続で不安に感じていることや悩みなど、1人で抱えこまずにぜひ私たちへご相談ください。

監修者 池部 翔司法書士・行政書士

司法書士法人・行政書士鴨川事務所 代表

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京都司法書士会・京都府行政書士会所属

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