遺言書

公正証書遺言に従わない場合にリスクはある?従わなくても良いケースとは?

2025.10.30

故人が残した公正証書遺言の内容があまりに不公平で、納得できないとお悩みではありませんか?公正証書遺言は法的に非常に強力ですが、「本当に従うしかないのか」「無視したらどうなるのか」と疑問に思う方も多いでしょう。

そこでこの記事では、以下の内容を徹底解説していきます。

  • 公正証書遺言に従わない(無視した)場合にリスクはある?
  • 相続人全員で公正証書遺言に従わない場合の対処法
  • 公正証書遺言に従わなくてもよい2つのケース

不公平な公正証書遺言が遺されていた場合や、公正証書遺言に従いたくない相続人が多い場合などでお悩みの方は、ぜひ最後までご覧ください。

1.そもそも公正証書遺言とは?

公正証書遺言とは、遺言者が公証役場に出向き、証人2名以上の立ち会いのもとで公証人に内容を伝えて作成してもらう、法的効力が強い遺言書です。公証人は法律の専門家であるため、内容の不備や形式のミスで遺言が無効になる心配がほとんどありません。

また、遺言書の原本は公証役場で厳重に保管されるため、紛失や改ざん、隠蔽(いんぺい)といったリスクを避けられるのが特徴です。

公正証書遺言は、遺言者が亡くなったあと、相続人同士のトラブルを未然に防ぐために広く利用されています。 

1-1.自筆証書遺言との違い

公正証書遺言と自筆証書遺言の違いは、作成方法と法的な信頼性です。

自筆証書遺言は、遺言者が全文を自分で手書きし、日付や氏名を記して押印するもので、1人で手軽に作成できる反面、形式の不備で無効になりやすい欠点があります。また、亡くなったあとに家庭裁判所での「検認(けんにん)」という手続きが必要になる場合もあります。

一方、公正証書遺言は公証人が作成に関与するため形式不備の心配がなく、検認も不要です。そのため、相続開始後すぐに相続手続きに移れるのが公正証書遺言の強みです。

1-2.公正証書遺言の法的効力と原則的な拘束力

公正証書遺言は、法律にもとづいて作成された公的な文書であり、遺言書のなかで最も強力な法的効力を持ちます。

遺言書に書かれた内容、たとえば「長男に不動産を相続させる」といった指定は、相続人全員に対して法的な拘束力を持ちます。そのため、一部の相続人が内容に不満を持っていたとしても、原則としてその遺言に従って相続手続きを進めなければなりません。

個人の感情や希望よりも、故人が残した法的な意思が優先されるのが大原則です。

関連記事:公正証書遺言に納得がいかないときの対処法と遺言が無効になる5つのケース

2.公正証書遺言に従わない(無視した)場合にリスクはある?

公正証書遺言に従わなかったとしても、それ自体に罰金や懲役といった刑事罰(ペナルティ)はありません。しかし、遺言の内容を実現する法的な義務は残るため、無視し続けると手続き上・法律上の重大なリスクを負うことになります。

以下で具体的なリスクを一つずつ解説します。

  • 遺言を無視すること自体には罰則なし
  • 遺言執行者によって単独で手続きを完了される
  • 相続人自身が手続きを進められなくなる
  • 遺言無効・遺留分請求の手間が増える

詳しく見ていきましょう。

2-1.遺言を無視すること自体には罰則なし

公正証書遺言に書かれた内容に従わなかったからといって、法律違反で警察に逮捕されたり、罰金を科されたりするような罰則はありません。相続はあくまで家族間の民事上の問題として扱われるためです。ただし、「従わなくてもよい」という意味ではありません。

遺言は故人の最終的な意思であり、法的に尊重されるべきものです。罰則がないからと無視を決め込むと、ほかの相続人から法的な手続きを起こされたり、結果として自分の権利が実現できなくなったりするリスクがあります。

2-2.遺言執行者によって単独で手続きを完了される

遺言書で「遺言執行者」が指定されている場合、従わない相続人がいても手続きが強制的に進められてしまうのが、公正証書遺言に従わないリスクの一つです。

遺言執行者とは、遺言の内容を実現するために必要な手続きをおこなう権限を持つ人です。たとえば、不動産の名義変更(相続登記)や預貯金の解約・分配なども、遺言執行者が単独でおこなえます。

あなたが遺言に反対して実印や印鑑証明書の提出を拒否しても、遺言執行者は法的な権限にもとづき、あなたの同意なしに相続手続きを完了できてしまうのです。

2-3.相続人自身が手続きを進められなくなる

遺言を無視する相続人は、その人自身が望む相続手続きを一切進められなくなります。たとえば、遺言書で指定された相続財産を受け取りたくない、あるいは遺言とは異なる内容で分割したいと考えても、法的に有効な遺言書が存在する以上、それが最優先されるからです。

銀行や法務局は、遺言書と異なる内容の払い戻しや名義変更には応じてくれません。結果として、相続財産が宙に浮いた状態が続き、自分が受け取れるはずの財産さえも手に入れられない不利益を被ることになります。

2-4.遺言無効・遺留分請求の手間が増える

遺言に従いたくない正当な理由がある場合、ただ無視するだけでは何も解決せず、かえって法的な手続きの手間が増えるだけです。

たとえば、遺言者の認知症が進んでいたため内容が無効だと主張したい場合、家庭裁判所で「遺言無効確認調停」や訴訟を起こす必要があります。また、自分の最低限の取り分である「遺留分」が侵害されている場合も、ほかの相続人に対して「遺留分侵害額請求」という意思表示をおこなわなければなりません。

これらは法的な手続きであり、専門的な知識も必要になります。遺言に従いたくない正当な理由がある場合は無視するのではなく、手順を踏んで法的な手続きを進めましょう。

3.相続人全員で公正証書遺言に従わない場合の対処法

公正証書遺言があったとしても、相続人全員がその内容とは異なる分け方で合意した場合は、遺言に従わずに遺産分割をおこなえます。

相続人全員で公正証書遺言に従わない場合の対処法について、詳しく解説します。

3-1.相続人全員を集めて遺産分割協議をおこなう

遺言書とは異なる内容で遺産を分けたい場合、相続人全員で遺産分割協議(話し合い)をおこない、全員が合意する必要があります。この合意にもとづいて「遺産分割協議書」を作成し、全員が実印を押して印鑑証明書を添付すれば、その内容で預貯金の解約や不動産の名義変更手続きが可能です。

ただし、遺言執行者がいる場合は、その執行者の同意も得なければなりません。執行者が遺言通りの執行にこだわると、協議が難しくなるケースもあるため注意しましょう。

3-2.付言事項は法的効力を伴わない

遺言書のなかには、財産の分け方といった法的な効力を持つ部分とは別に、「付言事項(ふげんじこう)」が記載されている場合があります。これは、たとえば「家族みんな仲良く」「妻の面倒を見てほしい」といった、故人の最後の想いや希望を伝えるメッセージ部分です。

付言事項には法的な拘束力(効力)はないため、従わなかったからといって、法的に何かが強制されることありません。ただし、故人の最後の願いとして、道義的に尊重するのが望ましいとされています。

4.公正証書遺言に従わなくてもよいケース①遺言の「無効」を主張できる

相続人全員の同意を得なくても、公正証書遺言に従わなくて良いケースがあります。その遺言自体が法的に「無効」であると主張できるケースです。公正証書遺言は法的効力が強力ですが、作成時の状況や内容によっては無効となる場合があるのです。

ただし、「内容が不公平だ」という感情的な理由だけでは無効になりません。無効を主張するには、家庭裁判所での調停や訴訟といった法的な手続きを経て、無効であると認められる必要があります。

4-1.遺言の「無効」を主張が可能なケース

公正証書遺言であっても「無効」を主張できるケースは、以下の5つです。

  • 遺言者に遺言能力がなかった
  • 遺言が錯誤・詐欺・強迫によって作成された
  • 証人に欠格事由があった
  • 口授を欠いていた
  • 公序良俗に反した遺言内容だった

一つずつ見ていきましょう。

4-1-1.遺言者に遺言能力がなかった

遺言者が遺言作成時に遺言能力を欠いていた場合、その遺言は無効です。

遺言能力とは、自分がおこなう遺言の内容やその結果を正しく理解できる判断能力を指します。たとえば、作成当時に重度の認知症が進行しており、自分の財産や相続人が誰かを認識できていない場合がこれにあたります。

公正証書遺言は公証人が本人の意思確認をおこなうため無効になりにくいですが、絶対ではありません。医師のカルテや介護記録などが、判断能力を欠いていた証拠となるため、遺言者が遺言作成時に遺言能力を欠いていたのを立証する際は用意しておきましょう。

4-1-2.遺言が錯誤・詐欺・強迫によって作成された

遺言が遺言者の真意ではなく、錯誤(勘違い)や他人からの詐欺・強迫(脅し)によって作成された場合、無効または取り消しを主張できます。特定の相続人から「嘘の情報」を吹き込まれて財産配分を誤ったり、「言う通りに書かないと危害を加える」と脅されてやむを得ず作成したりした場合がこれに該当します。

公正証書遺言であっても、作成の過程で公証人が気づかない巧妙な詐欺や強迫があった可能性は否定できません。ただし、故人に対する詐欺や強迫があったと証明するのは困難で、客観的な証拠が必要となります。

4-1-3.証人に欠格事由があった

公正証書遺言の作成に立ち会った証人に「欠格事由(けっかくじゆう)」があった場合、その遺言は無効になります。

公正証書遺言の作成には、必ず2名以上の証人が必要です。しかし、法律では未成年者や、遺産を受け取る予定の相続人本人、その配偶者や直系の血族(子や親など)は証人になれないと定められています。これは、遺言の内容に利害関係のある人が立ち会うと、公正さが保てなくなる懸念があるためです。

仮に、先述した人が証人として立ち会っていた事実が判明した場合、遺言全体が無効となる可能性があります。

4-1-4.口授を欠いていた

遺言者が公証人に対して遺言の内容を「口授(こうじゅ)」していなかった場合、公正証書遺言は無効になる可能性があります。口授とは、遺言者が遺言の内容を公証人に「口頭で伝える」行為を指します。口授は、遺言が遺言者本人の真意にもとづいているかを確認するための重要な手続きです。

遺言者が病気で話せない状態だったにもかかわらず、付き添いの相続人が一方的に内容を伝えたり、公証人からの質問にうなずいただけだったりした場合は、有効な口授があったとはいえません。

4-1-5.公序良俗に反した遺言内容だった

遺言の内容が「公序良俗(こうじょりょうぞく)」に反する場合、その遺言は無効とされる可能性があります。公序良俗とは、社会一般の道徳や秩序のことです。

「愛人に全財産を遺贈し、長年連れ添った配偶者の生活を困窮させる」内容や、「犯罪をおこなうと」を条件に財産を渡す内容は、公序良俗に反すると判断される場合があります。

ただし、単に愛人に財産を遺すというだけで直ちに無効になるわけではなく、配偶者の生活保障諸般の事情を考慮して判断されます。

4-2.公正証書遺言の無効を主張する流れ

公正証書遺言の無効を主張する流れについて、順を追って見ていきましょう。

  1. 公正証書遺言の無効を主張できる理由を確認する
  2. 家庭裁判所に「遺言無効確認訴訟」を提起する
  3. 訴訟で無効を立証する
  4. 判決確定によって「無効」が法的に確定する

それぞれ解説します。

4-2-1.公正証書遺言の無効を主張できる理由を確認する

遺言の無効を主張する最初のステップは、その遺言がなぜ無効なのか、法的な理由を明確に確認することです。

「内容が気に入らない」といった感情的な理由だけでは、公正証書遺言の無効を主張できません。法律で定められた無効事由である「作成時に遺言能力がなかった」「証人の資格に問題があった」など、具体的な根拠が必要です。

この段階で、医師の診断書や当時の状況を知る人の証言など、その根拠を裏付ける証拠も集め始めます。法的な判断が困難なため、専門家への相談がおすすめです。

4-2-2.家庭裁判所に「遺言無効確認訴訟」を提起する

相続人間での協議(話し合い)や調停で解決しない場合、最終的には「遺言無効確認訴訟」という裁判を提起して法的な決着を目指します。調停はあくまで話し合いの場ですが、訴訟は裁判官が証拠にもとづいて「遺言が有効か無効か」を法的に判断する手続きです。

遺言無効確認訴訟は、相続人全員が当事者として参加する必要があります。訴訟を提起する側(原告)は、遺言が無効であると主張する具体的な理由と、それを裏付ける証拠を裁判所に提出しなくてはなりません。

4-2-3.訴訟で無効を立証する

遺言無効確認訴訟では、遺言の無効を主張する側が、その理由を客観的な証拠で立証する責任を負います。

裁判所は「無効かもしれない」という疑いだけでは無効と認めてくれません。「遺言能力がなかった」と主張する場合、当時の医師のカルテや介護記録、本人の言動に関する証言などを提出し、遺言能力がなかったと推認できる証拠を示す必要があります。

公正証書遺言が有効な前提で審理が進むため、遺言無効確認訴訟における立証は困難なのが現実です。

4-2-4.判決確定によって「無効」が法的に確定する

訴訟の結果、裁判所が「遺言は無効である」と判決を下し、判決が確定すると、遺言は法的に無効となります。公正証書遺言が無効になると、相続人全員であらためて遺産分割協議をおこなうか、法定相続分に従って財産を分けることになります。

公正証書遺言が無効だと認められず「有効」と判断された場合は、原則としてその遺言に従うほかありません。

5.公正証書遺言に従わなくてもよいケース②自身の遺留分が侵害されているケース

公正証書遺言に従わなくてもよいもう一つのケースは、遺言によって自身の「遺留分(いりゅうぶん)」が侵害されている場合です。遺留分とは、兄弟姉妹を除く法定相続人に法律上最低限保障されている遺産の取り分のことです。

遺言書に「全財産を長男に相続させる」と書かれていても、ほかの相続人(たとえば配偶者や次男)は、自身の遺留分に相当する金額を長男に対して請求できます。これは遺言を無効にするものではなく、遺言の内容自体は有効なまま、実質的にお金を取り戻す権利といえます。

5-1.遺留分が認められる相続人の範囲

遺留分が認められる相続人は、故人の「配偶者」、「子(またはその代襲相続人である孫など)」、そして「直系尊属(父母や祖父母)」に限られます。故人の兄弟姉妹や、甥・姪には遺留分は認められていません。

したがって、遺言書で「全財産を愛人に遺贈する」と書かれていた場合、故人の兄弟姉妹は何も請求できませんが、配偶者や子であれば遺留分を請求できます。ただし、相続放棄をした人や相続欠格となった人は、相続権自体を失うため遺留分も主張できないため注意が必要です。

5-2.遺留分侵害額請求の期限と方法

遺留分を請求する遺留分侵害額請求権は、「相続の開始と遺留分を侵害する遺言があったと知った時から1年以内」に行使しなければ時効で消滅します。また、相続開始から10年が経過した場合も、遺留分侵害の事実を知らなかったという理由で、遺留分侵害額請求権を再び行使することはできません。

請求の方法は、まず内容証明郵便といった証拠が残る形で、遺産を多く受け取った相手に対し、「遺留分を請求します」という意思表示をおこないます。話し合いで解決しない場合は、家庭裁判所の調停や訴訟を通じて請求します。

6.まとめ

この記事では、公正証書遺言に従わない場合のリスクと、逆に従わなくてもよい正当なケースについて解説しました。

公正証書遺言は法的に非常に強力であり、無視すると遺言執行者によって手続きを進められるリスクがあります。しかし、遺言が絶対というわけではありません。相続人全員が合意すれば、遺産分割協議で自由に分け方を決めることも可能です。

もし遺された公正証書遺言の内容が不公平だと感じたら、泣き寝入りせず、「遺言の無効」や「遺留分侵害額請求」といった法的な手段を検討しましょう。時効もあるため、納得できない場合は早期に専門家へ相談してください。

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監修者 池部 翔司法書士・行政書士

司法書士法人・行政書士鴨川事務所 代表

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京都司法書士会・京都府行政書士会所属

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