遺言は何歳から作成できる?若いうちから遺言を書くメリット

年齢が若いうちは、終活について深く考えている人はそこまで多くないでしょう。しかし突然のできごとに備え、あらかじめ遺言書を作成しておくことは大切です。実際に、若い方で遺言書を作成される方もいらっしゃいます。

この記事では、何歳から遺言を残せるかを説明するとともに、若いうちから取り組むメリットについて紹介します。大切な家族がおり、万が一に備えたい方はぜひ参考にしてください。

1.遺言は何歳から作成できるのか

遺言とは、自分の死後に財産をどう分配するかについて、被相続人が意思表示する手段です。民法第961条によると、遺言能力は15歳に到達した者に認められます。したがって未成年でも、年齢の条件を満たしていれば遺言の作成が可能です。

年齢が15歳に設定されているのは、意味を理解していれば遺言を認めてもよいという考え方に基づいています。そのため遺言は、高齢になってから作成するケースが多いものの、若者にとっても重要な制度といえます。

2.遺言が有効となる年齢以外の条件

遺言には、年齢以外の条件も存在します。これらの条件を満たしていないと、法律上効力が発揮できません。とくに押さえておきたい条件は以下の3つです。

  • 自分の意思に基づいている
  • 事理弁識能力を有している
  • 遺言の形式を守っている

詳しく解説します。

2-1.自分の意思に基づいている

民法では、年齢以外にも被相続人自身の意思を最も重視しています。

たとえば、相続人や親族が遺言書の作成に関与し、強制的に書かせた遺言書は、効力を発揮しません。被相続人の意思だけではなく、他人が間接的に関わって作成しているためです。

ほかにも、認知症の場合、医師の診断結果や当時の生活状況をみて、意思能力がないとみなされることもあります。認知症の進行度だけではなく、さまざまな要素から総合的に判断されます。

2-2.事理弁識能力を有している

被相続人が後見開始の審判を受けていた場合、原則として遺言は無効です。

後見開始の審判とは、精神上の障害(認知症、知的障害、精神障害など)によって判断能力が欠けている方を保護し、支援するために、家庭裁判所がおこなう決定のことです。審判を受けた本人は成年被後見人と呼ばれ、法律行為(契約など)を単独でおこなう能力が制限されます。

しかし成年被後見人の場合でも、以下の条件を満たしたときに限り、遺言が有効なものとして扱われます。

  • 一時的に事理弁識能力が回復している
  • 2人以上の医師が立ち会っている
  • 被相続人本人が事理弁識能力があると遺言書に残し、署名捺印している

たとえ後見人でも、成年被後見人の遺言書の代筆はできません。あくまで事理弁識能力を回復している被相続人本人が、自分の意思に基づき作成する必要があります。

2-3.遺言の形式を守っている

意思能力や事理弁識能力があっても、遺言の形式を守れていなかったら効力は生じません。自分で作成する際には、以下の要素を記載する必要があります。

  • 本文
  • 日付
  • 住所
  • 署名捺印
  • 財産目録(別紙)

本来は用紙の指定はありませんが、遺言書を法務局に保管してもらうには以下の条件も守らないといけません。

  • A4サイズの用紙を使う
  • 模様や彩色がない
  • 上5mm、下10mm、左20mm、右5mmの余白をつくる
  • 片面のみに書く
  • ページ番号をふる
  • ホチキス止めをしない

このように遺言のルールは、細かいうえに複雑です。司法書士に相談しつつ、正しく作成できているかを入念にチェックしましょう。

3.若いうちから遺言を作成するメリット

遺言を作成するのはまだ先の話と思うかもしれませんが、若いうちから着手することで以下のようなメリットがあります。

  • 突然の事故に備えられる
  • 若くして認知症に罹る恐れもある
  • 相続トラブルを防ぐ対策がとれる
  • 相続税などの対策がとれる
  • 遺言が有効に成立しやすくなる
  • 遺言はいつでも取り消しできる

家族の将来に備えるべく、若いうちから遺言を作成するメリットについて知っておきましょう。

3-1.突然の事故に備えられる

遺言を残しておくことで、突然の事故に備えられます。

若いうちは健康に自信があるかもしれませんが、人はいつどこで亡くなるかは誰にもわかりません。これまでと変わらない日常のなかで、突然事故に巻き込まれて命を落とすこともあります。

基本的に人が突然死すると、銀行口座や証券口座は凍結されてしまいます。財産状況を家族内で共有できていなければ、どのくらいの資産と負債を持っていたかを把握しにくくなるでしょう。

現段階での財産目録を作成し、遺言を作成することで、家族は財産の状況や分配方法を把握できます。自分が突然死するのは想像したくないものの、万が一に備えようとする心構えが重要です。

3-2.若くして認知症に罹る恐れもある

若い人でも、まれに認知症に罹る恐れもあります。有名な症状の一つが、若年性アルツハイマーです。加えて交通事故の後遺障害により、判断能力に悪影響が及ぶことも考えられます。

若年性アルツハイマーなどを発症し、判断能力が低下すると遺言能力も認められにくくなります。こういった症状も事故と同じで、いつ発生するかは自分でもわかりません。

そのため、判断能力が備わっている若いうちに、遺言書を残しておいたほうが賢明です。

3-3.相続トラブルを防ぐ対策がとれる

若いうちに死亡した場合、家族間で相続トラブルが発生するケースもあります。とくに注意しないといけないのが、夫婦の間に子どもがおらず、配偶者と被相続人の直系尊属が相続人になるパターンです。

この場合は配偶者が3分の2、直系尊属は3分の1の相続権を有します。しかしこちらはあくまで法定相続分であり、実際は遺産分割協議で自由に変更が可能です。

配偶者と被相続人の直系尊属との関係がよくないと、遺産分割協議でもめる可能性も高まります。こうしたトラブルを防ぐには、あらかじめ遺言を残して相続財産の分配方法を決めることがおすすめです。

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3-4.相続税などの対策がとれる

遺言書の作成は、ときに相続税への対策にも役立ちます。年齢が若いうちから、マイホームを購入する人も一定数いるでしょう。マイホームを購入してから数年後に亡くなったとき、土地や建物が相続財産となります。

「3,000万円+600万円×法定相続人数」の金額を超えると、相続税が発生します。加えて土地や建物を相続すれば、固定資産税および都市計画税などの税金も納めないといけません。

不動産の場合、配偶者に相続させることで税負担を軽減できる場合もあります。ただし将来を考えたとき、必ずしも配偶者に不動産を相続させるのが正しいとも限らないでしょう。

各々の生活状況を考慮した財産分配をするためにも、家族と相談したうえで遺言書に作成することが大切です。

3-5.遺言が有効に成立しやすくなる

高齢者になってから遺言書を作成するよりも、若いうちから取り組んだほうが有効に成立しやすくなります。一般的には歳を重ねていくと、認知症などに罹るリスクも高まるためです。

仮に後見開始の審判を受けたら、遺言が認められるハードルも高くなります。自分の財産状況をはっきりと把握しているうちに、遺言書を作成したほうが望ましいでしょう。

3-6.遺言はいつでも取り消しできる

遺言は手続きが完了したあと、いつでも取り消しできます。仮に家族の構成や財産状況が変化しても、一度取り消して新しく作成すれば問題はありません。

したがって若い人が遺言書を作成したところで、相続人が受ける不利益はほとんどないといえます。ただし遺言書を新しく作り直すときは、有効に成立させるべく形式や作成時のルールを改めて確認してください。

4.遺言書の形式および特徴

遺言書には、大きく分けて自筆証書遺言書・公正証書遺言書・秘密証書遺言書の3種類があります。種類ごとにルールが細かく定められており、守れていないと遺言が無効になります。各ルールを詳しく説明するので、作成時の参考にしてください。

4-1.自筆証書遺言書

自筆証書遺言書とは、全文を自署する遺言書です。手書きで作成しなければならず、財産目録以外はワープロを使用できません。

全文を記載したあとは、日付や住所、署名捺印したうえで保管します。主な保管先は自宅ですが、自筆証書遺言書保管制度を活用すれば法務局に預けられます。

自筆証書遺言書のデメリットは、公正証書遺言書と比べて無効になる可能性が高い点

です。作成方法に問題がないか、司法書士などの専門家のチェックを受けるようにしましょう。

4-2.公正証書遺言書

公正証書遺言書は、証人2人の立ち会いのもとで公証人が作成する種類です。遺言者は、どのように財産を分配するかを口頭で公証人に伝えます。プロが作成してくれるので、形式上の不備を防げるのがメリットです。

完成した遺言書は、公証役場にて厳重に保管されます。紛失したり、第三者によって改ざんされたりする心配もありません。費用や時間はかかってしまうものの、遺言が有効に成立するためにも、なるべく公正証書遺言書を選んだほうがよいでしょう。

4-3.秘密証書遺言書

秘密証書遺言書は、作成した遺言書を公証役場に持っていき、封印して保管する種類です。自筆証書遺言書とは違い、本文をワープロで作成することも認められています。ただし署名については、手書きで記載しなければなりません。

封筒で厳重に保管されており、第三者が勝手に開封すると効力を失います。加えて自筆証書遺言書保管制度は、秘密証書遺言書には適用されません。自宅が主な保管場所となるため、第三者に発見されにくいといったデメリットもあります。

取り扱いの難しさもあり、秘密証書遺言書はあまり採用されていないのが現状です。特別な事情がない限りは、優先して選ぶのはおすすめしません。

5.遺言書作成は司法書士もサポート可能

司法書士であれば、遺言書の作成におけるサポートが可能です。公正証書遺言書での証人となれるほか、自筆証書遺言書の原案作成やチェックも担当します。ただし自筆証書遺言書の場合、司法書士が代理で記載することはできません。

司法書士は、登記のスペシャリストです。相続財産に不動産が含まれていれば、自分の死後に発生する相続登記もワンストップで対応できます。相続税などの対応も考慮すると、税理士資格を併せて持っていたり、ほかの税理士と連携している司法書士がおすすめです。

6.まとめ

遺言は、民法上では15歳から認められています。高齢者によって活用されるケースが多いものの、若年層にとっても遺言は効果的です。とくに配偶者や子どもがいる家庭は、万が一に備えた対策をとっておくのが望ましいでしょう。

遺言には自筆証書遺言書・公正証書遺言書・秘密証書遺言書の3種類あり、何を選ぶかで条件やルールも変わります。自分の意思が反映されるためにも、司法書士のアドバイスをもとに作成するのがおすすめです。

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