遺産相続

失踪宣告された人が生きていた | 取り消しの手順や相続・婚姻関係への影響

2025.06.02

行方がわからない親族がいる場合、残された親族は失踪宣告を申し立てることができます。失踪宣告を申し立てることで、行方不明となっている人は法的に死亡したとみなされ、さまざまな手続きを進められるようになるのです。

ですが稀に、失踪宣告による死亡の認定後に、その人物が知られざる場所で生存していたケースが発生することがあります。

そこでこの記事では、以下の内容を解説していきます。

  • 失踪宣告された人が生きていたらどうなる?
  • 失踪宣告を取り消す手順
  • 失踪宣告された人の配偶者がすでに再婚していたらどうなる?

失踪宣告をした親族の生存が確認され、その後の対応がわからずお困りでしたら、ぜひ最後までご覧ください。

1.そもそも失踪宣告とは?

失踪宣告とは、長期間にわたって生死不明な人(不在者)に対して、残された家族がさまざまな対応を進めるために設けられた制度です。

まずは、失踪宣告の基本事項を解説していきます。

1-1.失踪宣告された人は法律上「死亡した」とみなされる

家庭裁判所への手続きによって失踪宣告が確定すると、その人は、法律上死亡したものとして扱われます。これにより、その人を被相続人とする「相続」が開始され、配偶者は再婚することが可能になります。

また、生命保険金の支払いなども、死亡を証明する戸籍(失踪宣告の記載がされた除籍謄本)をもとにおこなえるようになります。

あらゆる法律関係が「死亡」を前提として動き出すのが、失踪宣告の強力な効果です。

1-2.失踪宣告は2種類

失踪宣告には、大きく分けて普通失踪と特別失踪の2種類があります。

種類概要
普通失踪7年間行方不明の場合申し立て可能
特別失踪危難が去ってから1年経過で申し立て可能

それぞれの内容について解説していきます。

1-2-1.普通失踪(7年間行方不明の場合申し立て可能)

普通失踪とは、失踪者の生死が7年間不明な場合の失踪宣告です。たとえば、ある日突然置き手紙があり、そのまま行方をくらます事例が該当します。

普通失踪によって失踪宣告を申し立てる場合は、家庭裁判所で手続きを踏む必要があります。死亡したとみなされるタイミングは、期間が満了したときです。相続も7年後に開始するのが原則とされています。

1-2-2.特別失踪(危難が去ってから1年経過で申し立て可能)

特別失踪とは、死につながるような危難が具体的に生じた際の失踪宣告です。たとえば、海に出た漁師が嵐による事故で行方不明になるケースが挙げられます。こちらも普通失踪と同様に、家庭裁判所への申し出が必要です。

戦争や船舶事故などによって行方不明になってから1年間生死が明らかでないとき、申し立てが可能になります。

2.失踪宣告された人が生きていたらどうなる?

失踪宣告をされたものの、実際は失踪者が生きていることもあります。失踪者の生存が明らかになった場合に起こることは、主に以下の4点です。

  • 生存が判明したら失踪宣告を取り消す必要がある
  • 失踪取り消し前の行為は原則有効となる
  • 婚姻関係が復活する
  • 失踪宣告により受け取った財産は返還する

それぞれ解説します。

2-1.生存が判明したら失踪宣告を取り消す必要がある

失踪者が生きていたら、まずは失踪宣告の取り消しを家庭裁判所に申告しないといけません。失踪宣告された人の生存が確認できても、失踪宣告自体は自動で取り消されないためです。

取り消す権利を持つ人は次のとおりです。 

  • 行方不明になっていた本人
  • 利害関係人(相続人や債権者など)

利害関係人となる要件は、本人と法律上の利害が発生していることです。単に知り合いであるだけでは、失踪宣告の取り消しはできません。検察官も利害関係人には該当しないと考えられています。

2-2.失踪取り消し前の行為は原則有効となる

失踪宣告により不動産を相続した人が、第三者に売却したとしましょう。もし失踪宣告が取り消されて売買契約も無効になると、購入者の生活にも支障が出てしまいます。

こうした事態を防ぐべく、原則として取り消し前の行為も有効です。ただし売主や買主が不在者が生きていることを知っていたとき、売買契約は無効とみなされます。あくまで善意があること(事実を知らないこと)が要件となっています。

2-3.婚姻関係が復活する

失踪宣告された人は、失踪宣告の取消しによって、法律上死亡していなかったことになります。そのため残された配偶者が再婚していなければ、以前の婚姻関係は、原則として自動的に復活します。

ただし、失踪宣告された人の配偶者がすでに再婚していた場合は話が別です。詳しくは後述します。

2-4.失踪宣告により受け取った財産は返還する

失踪者の財産は、失踪宣告の効力が発生したタイミングで相続の対象となります。しかし実際に生きていた場合、複数人に財産を分配された失踪者本人は、今後の生活において多大な負担がかかるでしょう。

ここでは、失踪宣告された人が生きていた場合の相続について、以下の4点を解説します。

  • 返還義務が生じる財産①相続財産
  • 返還義務が生じる財産②生命保険
  • 失踪宣告が善意か悪意かによる違い

そのため失踪宣告が取り消されたら、財産の中には返還義務が生じるものもあります。ここでは返還が必要な財産の例として、相続財産と生命保険について解説します。

2-4-1.返還義務が生じる財産①相続財産

相続財産に関しては、一般的に失踪者へ返還義務が生じます。たとえば父親が失踪し、配偶者と子で財産を分割した場合は、本人へ返さないといけません。

ただし返還義務が生じるのは、あくまで「現に利益を受けている利益(現存利益)」です。預金を相続し、そのお金で家を購入したと仮定します。このケースではお金を消費しているものの、相続人は「不動産」として財産が残っているので現存利益に該当します。

一方でギャンブルで浪費した場合は、手元に何の財産も残りません。したがって現存利益にはあたらず、本人に返還する必要がないわけです。

とはいえ相続財産の取り扱いは、親族らで自由に決めるのが一般的です。民法にはルールが規定されていますが、親族間での話し合いに重点を置きましょう。

2-4-2.返還義務が生じる財産②生命保険

返還義務が生じる財産には、生命保険も挙げられます。失踪宣告が取り消されたら、受け取った分の保険金を保険会社へ返さなければなりません。

こちらも相続財産と同様、返還する必要があるのは現存利益のみです。ただし自身では現存利益と思っていなくとも、世間的には返還義務が生じてしまう可能性もあります。個人の価値観で判断するのではなく、プロの司法書士に相談したほうが賢明です。

2-4-3.失踪宣告が善意か悪意かによる違い

財産を返還する範囲は、財産を受け取った相続人などが、失踪者が生きていることを知らなかった「善意」か、知っていた「悪意」かによって、全く異なります。

「善意」の場合は、旅行で使ったお金などは返す必要がなく、現在手元に残っている利益(現存利益)だけを返還すれば足ります。「悪意」の場合は、受け取った利益の全てに、利息を付けて返還する義務を負います。

3.失踪宣告を取り消す手順

失踪宣告を取り消す際には、大きく分けて4つの手順を踏む必要があります。

  1. 家庭裁判所への申し立て
  2. 必要書類の準備
  3. 家庭裁判所の審理開始
  4. 審判および結果の送付

手順ごとに、どういった手続きをしなければならないかを解説しましょう。

3-1.①家庭裁判所への申し立てる

失踪宣告を取り消すには、家庭裁判所への申し立てが必要です。失踪者の住所を管轄する家庭裁判所が、具体的な申立先となります。「失踪宣告取消審判申立書」を公式サイトからダウンロードできるため、記入例を参考にしながら必要事項を記入しましょう。

なお先程も説明しましたが、申立人はあくまで失踪者と利害関係を有する者でなければなりません。自分に申し立てる権利があるかどうかを、事前に司法書士へ確認するとよいでしょう。

3-2.②失踪宣告の取り消しに必要な書類を用意する

「失踪宣告取消審判申立書」を提出する際は、その他に必要となる書類がいくつかあります。

共通で必要な書類収入印紙:800円連絡用の郵便切手(金額は各裁判所により異なります)
失踪宣告された本人が申告する場合・本人の戸籍謄本(全部事項証明書)
・本人の戸籍附票
・本人が生存していることを証明する資料(現在の住民票、警察官が作成した生存証明書、病院の診断書など。本人が裁判所に出頭できる場合は、それが最も確実な証明となります)
失踪宣告された人の利害関係者が申告する場合(相続人、配偶者など)・申立人の戸籍謄本
・申立人の住民票
・失踪者の戸籍謄本(全部事項証明書)
・失踪者の戸籍附票
・申立人と失踪者との利害関係を証明する資料(相続関係を示すための戸籍謄本など)
・失踪者が生存していることを証明する資料(失踪者からの手紙、警察からの連絡票、第三者の証明書など)

加えて官報公告料として、4,816円の納付も必要です。ほかにも家庭裁判所の審判において、必要書類が出てくる可能性もあります。何か提出が求められたら、迅速に対応できるようにしてください。

3-3.③家庭裁判所で審理が開始される

失踪宣告を取り消す申告がなされたら、家庭裁判所は失踪者が本人かどうかを確認します。確認方法としては、家庭裁判所の調査官が提出した書面を通して調査する方法が一般的です。

場合によっては、生存者本人に対する聞き取り調査もあるかもしれません。家庭裁判所側がスムーズに審理手続きを進められるよう、申立人らも協力しましょう。

3-4.④審判および結果が送付される

申し立てが適切と認められれば、家庭裁判所は失踪宣告取り消しの審判をします。まず申立人に対して、審判書謄本が送付されます。謄本が届いたら、内容をよく確認してください。

もし内容に不服があったら、2週間以内に不服申立てをする必要があります。不服申立てがなかったら、家庭裁判所の審判は正式に確定して官報にも掲載されます。

しかし審判が確定しても、戸籍謄本の内容が自動的に変わるわけではありません。戸籍関連の手続きは、市町村役場で別に行わないといけないので注意が必要です。

4.失踪宣告された人の配偶者がすでに再婚していたらどうなる?

失踪宣告された人が生きて戻ってきた際、残された配偶者がすでに再婚していた場合、その再婚がどう扱われるかは、関係者全員が「善意」であったか「悪意」であったかによって、結論が全く異なります。

非常に複雑な問題となるため、注意深く見ていきましょう。

4-1.失踪宣告と離婚の違い

まずは、失踪宣告と離婚の違いを知る必要があります。失踪宣告と離婚は、どちらも婚姻関係を解消させる効果を持ちますが、その法的な性質は全く異なるものです。

離婚は、夫婦双方の合意や裁判所の判断によって、婚姻契約そのものを「解消」する手続きです。一方失踪宣告は、配偶者の一方が法律上「死亡した」と見なされることで、結果的に婚姻関係が「終了」するものです。

婚姻関係の解消と終了という点に違いがあることを、理解しておきましょう。

4-2.失踪宣告が善意か悪意かによる違い

失踪宣告された人の配偶者前の婚姻関係が復活するかどうかは、残された配偶者とその再婚相手が、失踪者が生きていることを知っていたか(悪意)、知らなかったか(善意)で決まります。

それぞれ解説していきます。

4-2-1.善意の失踪宣告がされたあとにその配偶者が再婚していた場合

もし、残された配偶者とその新しいパートナーの「両方」が、失踪者が生きているとは知らずに(善意で)再婚した場合、その新しい婚姻関係は法律上保護されます。

そのため、たとえ失踪宣告が取り消されても、以前の婚姻関係は復活しません。生存が確認された失踪者とその配偶者との以前の婚姻関係は、終了したままとなります。

これは、新しい家族の生活を守ることを優先するためのルールです。

4-2-1.悪意の失踪宣告がされたあとにその配偶者が再婚していた場合

残された配偶者か、その新しいパートナーの「どちらか一方でも」、失踪者が生きていることを知りながら(悪意で)再婚した場合、その新しい婚姻関係は保護されません。そのため、失踪宣告が取り消されると同時に、以前の婚姻関係が法的に完全に「復活」します。

結果、失踪宣告後の再婚は、前の婚姻と重複する「重婚」状態となり、取り消しの対象となります。

5.失踪宣告に関するご相談は司法書士へ

失踪宣告はルールが複雑であり、民法を詳細に理解する必要があります。さまざまな手続きに追われる中、これらのルールを習得するのは難しいでしょう。

そのため失踪宣告の取り消しをするのであれば、民法のプロである司法書士に依頼するのをおすすめします。司法書士であれば失踪宣告に関する相談のみならず、書類作成の代理も可能です。

複数の事務所に訪問しつつ、相性やサポートが良いと感じたところに依頼しましょう。

6.まとめ

親族が行方不明になったとき、財産関係を明確にするには失踪宣告も選択肢の一つとなります。ただし失踪宣告が認められるには、普通失踪と特別失踪の要件を満たさなければなりません。

また家庭裁判所から審判が下りても、失踪者が実は生きているケースもあります。この場合は財産関係もさらに複雑になるため、司法書士と相談したうえで手続きしてください。

司法書士法人・行政書士鴨川事務所では、失踪宣告や相続に関するお問い合わせを随時受け付けております。相続で不安に感じていることや悩みなど、1人で抱えこまずにぜひ私たちへご相談ください。

監修者 池部 翔司法書士・行政書士

司法書士法人・行政書士鴨川事務所 代表

相続手続きは複雑で、自己判断により重大なトラブルを招くことがあります。当事務所では、丁寧に相談を受けたうえで、専門知識を活かし、最適な解決策の提案から実行までをサポートしています。

京都司法書士会・京都府行政書士会所属

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