遺言書

公正証書遺言は無視できる?無視する場合の正しい対応や注意点

2025.12.04

「亡くなった親が公正証書遺言を残していたが、内容にどうしても納得がいかない」「家族全員の合意があるなら、遺言を無視して分け直したい」とお悩みではありませんか?

実は、法的効力の強い公正証書遺言であっても、相続人全員の合意などの条件が整えば、内容とは異なる遺産分割をおこなうことは可能です。

この記事では、遺言を法的に無視して遺産を分け直すための具体的な手順や、無効を主張する際のハードル、そして「遺留分」による対抗策について解説します。

対応を間違えることで相続権を失うリスクもあるため、正しい知識を身につけましょう。

1.公正証書遺言を無視すること自体は違法ではない(条件あり)

公正証書遺言が残されていたとしても、相続人全員の合意があれば、遺言の内容を無視して別の分け方をすることは違法ではありません。遺言は故人の最終的な意思表示ですが、財産を受け取る権利のある相続人全員が納得しているのであれば、その合意が優先されるからです。

実際に、遺言の内容が現状の生活実態に合わなかったり、特定の相続人に偏りすぎていたりする場合、話し合いで再分配をおこなうケースは珍しくありません。

ただし、公正証書遺言を無視することに一人でも反対する人がいれば、遺言の内容が絶対となります。そのため、全員の同意を得ることが必須条件です。

1-1.ただし公正証書遺言は無効になりにくい

遺言の内容に従いたくない場合、「遺言自体が無効だ」と主張する方法がありますが、公正証書遺言が無効と認められる可能性は極めて低いです。公証人という法律の専門家が、厳格な手続きのもとで作成しているため、形式的な不備や意思能力の欠如を証明するのが難しいからです。

自筆証書遺言であれば、日付の書き漏らしや認知症の疑いなどで無効になることもあります。しかし、公正証書遺言を覆すには、作成時に本人の意識が完全になかったことを証明する医療記録などの強力な証拠が必要となり、裁判でも認められにくいのが現実です。

1-2.公正証書遺言があることを知りながら故意に隠したり破棄したりするのは違法

公正証書遺言の存在を知りながら、故意に隠したり破棄したりする行為は民法上の「相続欠格事由」に該当します。

原本は公証役場に保管されているため手元の正本を処分しても効力は失われませんが、不正行為が発覚すると相続権をすべて失う重大な結果となるため適切な取り扱いが必要です。

2.それでも公正証書遺言の内容を無視したい場合にとれる手段

公正証書遺言の効力は非常に強力ですが、法的に認められた手続きを踏むことで、遺言とは異なる結果を導き出せる可能性があります。主に、以下3つの手段です。

  • 相続人「全員」の合意を得て遺産分割協議をやり直す
  • 遺言自体の「無効」を主張する
  • 「遺留分侵害額請求」をおこなう

それぞれの手段には条件や期限があるため、ご自身の状況に合わせて最適な方法を選択しましょう。詳しく解説します。

関連記事:公正証書遺言に従わない場合にリスクはある?従わなくても良いケースとは?

2-1.①相続人「全員」の合意を得て遺産分割協議をやり直す

最も平和的かつ確実な方法は、相続人全員の合意のもとで遺産分割協議をやり直すことです。遺言書があっても、相続人全員が「遺言通りではなく、自分たちで決めた分け方にしたい」と同意しているのであれば、その合意内容を優先させることが可能です。

この場合、遺言書の内容を無視して、新たに作成した遺産分割協議書に従って手続きを進めることになります。ただし、一人でも反対する人がいれば、原則どおり遺言の内容が強制されることになるため、全員の納得を取り付けるための丁寧な話し合いが不可欠です。

関連記事:遺言書があれば遺産分割協議書はいらない?例外ケースや手続きの手順

2-1-1.全員の合意があれば、遺言と異なる分け方をしても法的に有効

相続人全員が合意していれば、遺言と異なる遺産分割をおこなっても法的に何ら問題はありません。遺言は故人の最終意思として尊重されるべきものですが、財産を受け取る当事者全員がその権利を放棄し、別の配分を望むのであれば、契約自由の原則に基づきその決定が有効となるからです。

この方法をとる場合、後々のトラブルを防ぐために、必ず全員の実印を押した遺産分割協議書を作成しましょう。これにより、法務局での登記や銀行手続きも、遺言書を使わずに進めることができるようになります。

2-1-2.遺言執行者がいる場合は、その人の同意も必要になる

遺言書で遺言執行者が指定されている場合、相続人全員の合意だけでは足りず、遺言執行者の同意も必要です。

遺言執行者は遺言内容を実行する権限を持つため、内容を変更する際には執行者の立場を尊重しつつ協議する必要があります。とくに弁護士などの専門家が執行者に選ばれている場合、故人の遺志を厳格に守ろうとすることが一般的です。

そのため、遺言執行者を解任するか、あるいは執行者を含めて話し合いが必要になります。

2-1-3.遺言で「第三者への遺贈」がある場合は無視できない

遺言の中に、相続人以外の人物(愛人やお世話になった知人、寄付先の団体など)に財産を譲る「遺贈」が含まれている場合、その部分を相続人だけの合意で変更することはできません。受遺者(遺贈を受ける人)には、遺言どおりに財産をもらう正当な権利があるからです。

もし遺言と異なる分け方をしたいのであれば、その受遺者も含めて話し合い、同意を得る必要があります。受遺者が権利の放棄に応じない限り、その部分については遺言の内容が執行されることになります。

2-2.②遺言自体の「無効」を主張する

遺言の内容があまりにも不自然であったり、作成当時の状況に疑念があったりする場合は、遺言そのものの無効を主張して争うことになります。もし裁判で無効が認められれば、遺言書は初めからなかったことになり、民法のルールに従って遺産分割協議をおこなえます。

しかし、公正証書遺言は公証人が関与して作成されているため、自筆の遺言に比べて信頼性が非常に高く、無効と認めさせるのは容易ではありません。確実な証拠を集め、法的な手順を踏んで戦う覚悟が必要です。

2-2-1.公正証書でも無効になるケース

公正証書遺言であっても、作成時に被相続人が重度の認知症で「遺言能力」がなかったことが証明されれば、無効になる可能性があります。公証人は法律のプロですが、医学の専門家ではないため、短時間の面談では認知症の症状を見抜けないこともあるからです。

たとえば、作成当時の長谷川式認知症スケールの点数が著しく低かったり、医師の診断書で意思疎通が困難であったと記録されていたりする場合、裁判所が「遺言能力なし」と判断するケースもあります。

参考:認知症検査の長谷川式認知症スケール(HDS-R)とは|やり方や評価項目、点数基準を解説|SOMPO笑顔倶楽部

2-2-2.公正証書遺言の無効を主張する流れ

遺言の無効を主張するには、まず家庭裁判所に「遺言無効確認調停」を申し立てます。ここでは調停委員を介して話し合いますが、相手方が遺言の有効性を主張して譲らない場合、調停は不成立となります。

調停が不調に終わった場合は、地方裁判所に「遺言無効確認訴訟」を提起し、裁判で争うことになります。ここでは、当時の医療記録や介護日誌、証言など、客観的で強力な証拠を提示できるかが勝敗の分かれ目となります。

2-3.③「遺留分侵害額請求」をおこなう

遺言自体を無効にできず、話し合いもまとまらない場合でも、最低限の遺産を受け取る権利である「遺留分」を主張できます。

遺留分は、兄弟姉妹以外の法定相続人(配偶者、子、親)に法律で保障された権利です。たとえ「長男に全財産を譲る」という極端な遺言であっても、ほかの相続人の遺留分まで奪うことはできません。

2-3-1.遺言自体を無効にできなくても、遺留分の請求は可能

遺留分を請求することを、「遺留分侵害額請求」といいます。これは、遺言の有効性を認めたうえで、自分の取り分が侵害された額を金銭で返してもらう手続きです。

以前は「遺留分減殺請求」と呼ばれ、不動産などの現物を共有状態に戻すものでしたが、法改正により金銭での解決に一本化されました。

これにより、不動産の名義などは遺言どおりに移転させつつ、侵害された遺留分に相当する現金を相手方に請求することになります。遺言を無視するのではなく、法的な調整をおこなう、現実的な解決策といえます。

2-3-2.遺留分侵害額請求の流れ

まずは、遺産を多く受け取った相手に対し、「遺留分を請求します」という意思表示をおこないます。証拠を残すために、必ず「配達証明付き内容証明郵便」を送付しましょう。口頭や普通郵便では、あとから「聞いていない」と言われ、時効になってしまうリスクがあるからです。

郵便を送ったあと、相手と具体的な支払額や方法について交渉します。話し合いで合意できれば合意書を作成して終了ですが、話がまとまらなければ家庭裁判所に調停を申し立てることになります。

2-3-3.遺留分侵害額請求の時効に注意

遺留分侵害額請求には時効があり、「相続開始と侵害を知った時から1年」以内に請求しなければ権利が消滅します。また、知らなかった場合でも「相続開始から10年」で権利が消滅するため、早期の対応が重要です。

とくに「知ってから1年」はあっという間に過ぎてしまうため、納得がいかない場合は、迷わずに専門家へ相談し、早急に内容証明郵便を送る準備をしてください。

3.公正証書遺言を無視するなら知っておきたい注意点

公正証書遺言を無視して別の形での解決を目指す場合、以下の3点に注意してください。

  • 被相続人の意に反することは理解しておく
  • 一部の相続人だけで決めても手続きは進められない
  • 遺言書を隠したり破棄したりすると「相続欠格」で権利を失う

詳しく解説します。

3-1.被相続人の意に反することは理解しておく

遺言書とは、亡くなった方が生前に考え抜いて残した「最後のメッセージ」です。相続人全員の合意で無視できるとはいえ、それは故人の意思を覆す行為にほかなりません。

法的には問題なくても、道徳的な観点から親族間での感情的なしこりが残る可能性があります。「なぜ故人はそのような遺言を残したのか」という背景や想いを一度汲み取ったうえで、それでも変更が必要かどうかを慎重に話し合う姿勢が大切です。

3-2.一部の相続人だけで決めても手続きは進められない

「遺言を無視して分け直そう」と決める場合、必ず相続人「全員」の参加と同意が必要です。一人でも連絡が取れない人がいたり、反対する人がいたりする場合、一部の人だけで作成した遺産分割協議書は無効となります。

銀行や法務局の手続きでは、相続人全員の印鑑証明書の添付が求められます。「あの人は関係ないから」と勝手に進めることは絶対にできません。行方不明の相続人がいる場合は、不在者財産管理人の選任など、別途法的な手続きが必要になります。

関連記事:相続人と連絡が取れないときの相続の進め方・対処法を徹底解説

3-3.遺言書を隠したり破棄したりすると「相続欠格」で権利を失う

自分に不利な遺言書が見つかったからといって、それを隠したり、破いたり、書き換えたりすることは絶対にしてはいけません。

公正証書遺言は原本が公証役場に保管されているため、手元の正本を処分しても遺言の存在は消せません。それどころか、このような行為が発覚すると、民法上の「相続欠格事由」に該当し、相続権そのものを強制的に剥奪されます。

相続の権利を失うことのないよう、正当な手続きで対応しましょう。

4.まとめ

公正証書遺言は非常に強力な法的効力を持ちますが、相続人全員の合意があれば、内容にとらわれず遺産分割協議をやり直すことが可能です。

また、話し合いがまとまらない場合でも、最低限の権利である「遺留分」を請求することで、不公平な配分を是正できる可能性があります。

ただし、自分勝手な判断で遺言を隠蔽したり破棄したりするのは違法であり、相続権そのものを失うリスクがあります。関係者との調整や法的手続きが複雑になるケースが多いため、不安な場合は早めに司法書士や弁護士などの専門家へ相談することをおすすめします。

司法書士法人・行政書士鴨川事務所では、相続に関するお問い合わせを随時受け付けております。相続で不安に感じていることや悩みなど、1人で抱えこまずにぜひ私たちへご相談ください。

監修者 池部 翔司法書士・行政書士

司法書士法人・行政書士鴨川事務所 代表

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京都司法書士会・京都府行政書士会所属

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