遺産相続

相続人の認知症はバレるか?バレるタイミングや隠すリスクとは?

2025.06.02

「同じ相続人である母の認知症がだいぶ進行している」という悩みを抱えている人も少なからずいるでしょう。

相続人の中に認知症の人がいることを隠そうとしても、家庭裁判所にバレる確率は高いといえます。仮にバレてしまった場合、相続の手続きがスムーズに進まなくなる恐れがあるので注意が必要です。

この記事では、次の内容について詳しく解説します。

  • 相続人の認知症がバレるタイミング
  • 相続人が認知症であることを隠すリスク
  • 認知症が相続の手続きにどう影響を及ぼすか
  • 相続人が認知症の場合はどう対処すべきか

認知症を抱えている親族がいる人は、今後の手続きに向けての参考にしてください。

1.相続人が認知症であることはバレる

相続人が認知症であることは、相続手続きの過程で明らかになることがほとんどです。

遺産分割協議では、相続人全員の同意が必要ですが、認知症により意思能力が欠けている場合、協議が成立しません。また、金融機関や法務局での手続き時に、本人確認や意思確認が行われるため、認知症の兆候が見受けられると、手続きが停止される可能性があります。

さらに、認知症の相続人がいることを隠して手続きを進めた場合、後に発覚すると、遺産分割協議が無効とされるリスクもあります。

2.相続手続きで認知症がバレるタイミングと相手

相続人が認知症であることは、相続手続きを進めるなかで外部にバレる可能性が高いです。「外部」として挙げられるのが、以下のような機関や人です。

  • 遺産分割協議の際(ほかの相続人・専門家)
  • 銀行の預貯金解約・名義変更の際(銀行員)
  • 不動産の名義変更(相続登記)の際(法務局・司法書士)
  • 相続放棄や限定承認の申述の際(家庭裁判所)

それぞれ解説していきます。

2-1.遺産分割協議の際(ほかの相続人・専門家)

遺産分割協議の場で、他の相続人や専門家に認知症であることが発覚します。遺産分割協議は、相続人全員での話し合いと合意が必須だからです。

協議の場で会話が成り立たなかったり、署名・押印の意味を理解できなかったりする様子を見れば、他の相続人はその合意能力に疑問を持ちます。弁護士や司法書士が同席している場合、専門家として本人の意思能力の欠如を判断し、協議の中断を勧告します。

本人の状態を隠して協議に参加させることは困難です。

2-2.銀行の預貯金解約・名義変更の際(銀行員)

銀行窓口での預貯金解約や名義変更の際、銀行員に認知症であることが発覚します。銀行は、預金者の財産を守るため、相続手続きにおいて厳格な本人確認と意思確認をおこなうからです。

窓口で銀行員が本人に対し、手続きの内容や理由について質問した際、的確な返答ができないと意思能力がないと判断されます。その結果、銀行は手続きを拒否し、口座は事実上凍結されます。

判断能力のない状態での取引を無効とし、本人の財産を保護するための措置です。

2-3.不動産の名義変更(相続登記)の際(法務局・司法書士)

不動産の相続登記(名義変更)の手続きの際、司法書士や法務局に認知症であることが発覚します。登記手続きには、遺産分割協議書への本人の有効な署名・押印が必須です。

司法書士は、登記を代行する際に必ず本人と面談し、意思能力を確認します。もし認知症で意思能力がないと判断されれば、司法書士は職責上、登記申請の依頼を受けられません。

不動産という重要な財産の名義変更において、本人の状態が明らかになります。

2-4.相続放棄や限定承認の申述の際(家庭裁判所)

相続放棄や限定承認を家庭裁判所に申し立てる(申述する)際、認知症であることが発覚します。手続きは本人の財産に重大な影響を与えるため、家庭裁判所が本人の真意を厳格に確認するためです。

申述後、家庭裁判所から本人宛に「照会書(回答書)」が送付され、本当に放棄する意思があるかを確認されます。本人が認知症でこの照会書に適切に回答・返送できなければ、家庭裁判所は意思能力に疑いを持ち、申述を受理しません。

法的な権利変動において、裁判所は本人の状態を見逃さないのです。

3.相続人が認知症であることを隠すリスク

相続人が認知症であることを隠し通そうとすると、手続きするうえで以下のようなリスクが発生し金ません。

  • 家庭裁判所での決定が無効になりうる
  • 銀行との取引が無効になりうる
  • 詐欺罪や有印私文書偽造罪にあたることも
  • ほかの相続人から損害賠償請求される恐れもある

一つずつ解説していきます。

3-1.家庭裁判所での決定が無効になりうる

相続人が認知症であるのを隠していると、家庭裁判所での諸々の手続きが無効になります。仮に一度手続きが完了しても、決定がなかったことになりうるので注意してください。

相続が発生した場合、死亡したことを知った日から10カ月までに申告と納税(相続税)を済ませなければなりません。この期間を過ぎてしまうと、加算税や延滞税といったペナルティが課せられる恐れもあります。

家庭裁判所での決定が取り消されると、手続きを一から進めないといけないのでタイムリミットを過ぎる可能性も高まります。

結局バレることを考えたら、はじめから認知症の相続人がいるのを明かしたうえで手続きを進めたほうが賢明です。

3-2.銀行との取引が無効になりうる

銀行との取引が無効になりうる点も、相続人が認知症であるのを隠し通すリスクのひとつです。先程も説明したとおり、口座名義人が認知症を患うと基本的に口座は凍結します。

相続人が認知症を患った際、いくら相続手続きに必要でもほかの家族が勝手に口座から現金を引き出すのは無効とされています。基本的には、成年後見制度を利用しないといけません。

2021年に全国銀行協会が指針を発表し、一定の条件を満たしていれば後見人以外の家族でも引き出しできるよう緩和されました。

ただしこの条件を満たすには、以下の手続きを踏む必要があります。

  • 認知症の診断書等を提出する
  • 財産の使用目的を銀行に伝える

つまり認知症を隠して口座からお金を引き出せば、その行為が無効になる可能性は極めて高いでしょう。

3-3.詐欺罪や有印私文書偽造罪にあたることも

認知症であるのを隠して相続手続きをすると、詐欺罪や有印私文書偽造罪などに該当する恐れもあります。これらの法定刑は以下のとおりです。

罪名法定刑
詐欺罪10年以下の懲役
有印私文書偽造罪3カ月以上〜5年以下の懲役

詐欺罪は、主に銀行に対する行為(偽造した遺産分割協議書で預金を払い戻すなど)が該当します。特に金融取引が絡むと、相手方を欺いたことになるためです。

一方で相続人の認知症を隠して遺産分割協議を完成させると、有印私文書偽造罪にあたります。

3-4.ほかの相続人から損害賠償請求される恐れもある

これらの問題以外にも、ほかの相続人から損害賠償請求されるリスクも発生します。例えば同じ相続人で母が認知症であるのを知らない弟に対し、事実を隠したとしましょう。

弟は遺産分割協議にも参加し、その決定にしたがって財産を譲り受けられると信じていました。しかし母の認知症を隠していたのがバレてしまい、手続きが全て無効になったと仮定します。

この場合、本来貰えるはずの利益が失われたのと同じ状態になります。したがって事実を知らなかったほかの家族が、隠蔽した人物を訴えることもあるでしょう。

実際の賠償額はケースによって変わりますが、財産の状況次第では高額になる恐れもあるので注意してください。

4.認知症の相続人がいる場合に発生する法的な問題点

認知症の相続人がいる場合に発生する法的な問題点は、以下の4つです。

  • 遺産分割協議ができない(法律行為)
  • 相続放棄・限定承認ができない
  • 相続財産(預貯金・不動産)が凍結・共有状態になる
  • ほかの相続人も遺産を受け取れない

それぞれ見ていきましょう。

4-1.遺産分割協議ができない(法律行為)

認知症の相続人がいると、遺産分割協議ができません。遺産分割協議は相続人全員の合意によって成立する「法律行為」だからです。

法律行為が有効であるためには、参加者全員に「意思能力(自分の行為の結果を理解できる能力)」が必要です。認知症によってこの意思能力が欠如していると判断されると、その相続人は協議に参加できず、全員の合意が得られないため遺産分割協議は法的に成立しません。相続を進めるうえで、最初の大きな壁となります。

4-2.相続放棄・限定承認ができない

認知症の相続人は、自ら相続放棄や限定承認の手続きをおこなえません。これらの手続きも本人の財産状況に重大な影響をおよぼす「法律行為」であり、明確な意思能力が求められるためです。

たとえば、故人に多額の借金があった場合、相続放棄をしなければその借金も引き継ぎます。しかし、本人が認知症で「借金を相続しない」という法的な判断と手続きができないため、自動的に借金を背負ってしまうリスクに晒されます。本人の権利を守るための手続きさえできなくなるのです。

4-3.相続財産(預貯金・不動産)が凍結・共有状態になる

遺産分割協議ができない結果、故人の財産は実質的に凍結状態となります。銀行は相続人全員の同意(遺産分割協議書など)がなければ預金の解約に応じず、口座は凍結されたままです。不動産は相続登記ができず、相続人全員の「共有状態」となります。

共有状態の不動産は、共有者全員の同意がなければ売却も賃貸もできず、事実上、誰も利用も処分もできない「塩漬け」の資産となってしまいます。財産が法的に身動き取れない状態に陥るのです。

関連記事:認知症の相続人がいる場合の相続手続きはどうなる?問題点と対処法を解説

4-4.ほかの相続人も遺産を受け取れない

認知症の相続人が一人いることで、ほかの健康な相続人全員も遺産を受け取れなくなります。遺産分割協議は、相続人全員の合意がなければ成立しないためです。

たとえほかの相続人全員が分割内容に合意していても、意思能力のない相続人が一人でも含まれている限り、その協議は法的に無効です。結果として、誰も預金を引き出せず、不動産の名義変更もできず、相続手続き全体がストップしてしまいます。相続は、相続人全員が共同でおこなわなければならない手続きです。

5.認知症の相続人がいる場合でも遺産分割協議を進められるケース

認知症の相続人がいる場合でも遺産分割協議を進められるケースがあります。それは、以下のようなケースです。

  • 故人の遺言書が残されている
  • 家族信託をしている
  • 後見人が選任されている
  • 任意後見契約を締結済みである
  • 法定相続分に則って相続を進める

詳しく解説します。

5-1.故人の遺言書が残されている

故人が有効な遺言書を残している場合、その内容に従って遺産分割を進めることができます。遺言書が公正証書で作成されている場合は、家庭裁判所の検認手続きが不要であり、手続きが円滑に進みます。

ただし、遺言書の内容に不備がある場合や、他の相続人との間で争いが生じた場合は、遺産分割協議が必要になることもあります。

関連記事:公正証書遺言に納得がいかないときの対処法と遺言が無効になる5つのケース

5-2.家族信託をしている

家族信託を活用している場合、認知症の相続人がいても、信託契約に基づいて財産の管理や分配を行うことができます。家族信託は、信頼できる家族や親族に財産の管理を任せる制度であり、柔軟な対応が可能です。ただし、信託契約の内容や受託者の選定には慎重な検討が必要です。

5-3.後見人が選任されている

認知症の相続人に対して、家庭裁判所が後見人を選任している場合、後見人がその相続人を代理して遺産分割協議に参加することが可能です。後見人は、被後見人の利益を最優先に考慮し、適切な判断をおこないます。

ただし、後見人が遺産分割協議を行うためには、家庭裁判所の許可が必要となる場合があります。

5-4.任意後見契約を締結済みである

認知症になる前に任意後見契約を締結していた場合、本人の判断能力が低下した際に、契約に基づいて後見人が選任されます。任意後見人は、本人の意思を尊重しながら財産管理や遺産分割協議をおこなうことができます。

任意後見契約の制度を利用することで、将来のリスクに備えることが可能です。

5-5.法定相続分に則って相続を進める

相続人全員が法定相続分に従って遺産を分割することに同意している場合、遺産分割協議をおこなわずに相続手続きを進めることができます。認知症の相続人がいても、家庭裁判所の関与を最小限に抑えることが可能です。

ただし、相続人全員の合意が必要であり、慎重な対応が求められます。

6.認知症の相続人がいる場合に知っておきたい成年後見制度のポイント

成年後見制度は、認知症の相続人がいる場合の法的な解決策です。しかし、この制度を利用した結果、「こんなはずではなかった」と後悔するケースも少なくありません。

ここでは、成年後見制度を利用する前に必ず知っておきたい5つの大きなポイントを解説します。

  • 被後見人の法定相続分は厳格に守られる
  • 遺産分割後も後見制度の関与が続く
  • 後見人と信頼関係を築くのが難しい場合もある
  • 専門家後見人への報酬が必要となる
  • 被後見人の財産は積極的に運用・投資できない

一つずつ解説していきます。

6-1.被後見人の法定相続分は厳格に守られる

成年後見制度では、被後見人の法定相続分が厳格に守られます。後見人は、被後見人の利益を最優先に考慮しなければならないため、ほかの相続人との間で柔軟な遺産分割協議をおこなうことが難しくなるのです。

その結果、相続手続きが円滑に進まない場合があります。

6-2.遺産分割後も後見制度の関与が続く

遺産分割が終了した後も、成年後見制度の関与は続きます。被後見人が存命である限り、後見人は財産の管理や生活支援を継続する必要があるのです。

これにより、相続手続きが完了しても、後見制度の影響を受け続けることになります。

6-3.後見人と信頼関係を築くのが難しい場合もある

後見人が専門職である場合、被後見人やその家族との間で信頼関係を築くのが難しいことがあります。特に、被後見人の意思や希望が十分に反映されないと感じる場合、後見人と相続人の間で良好な関係が築けないことが多いです。

信頼関係の構築には、時間と双方の努力や歩み寄りが必要です。

6-4.専門家後見人への報酬が必要となる

専門職が後見人に選任された場合、報酬の支払いが必要です。報酬の額は、被後見人の財産状況や後見人の業務内容に応じて決定されますが、年間で数十万円に及ぶこともあります。

この費用は、被後見人の財産から支払われるため、経済的な負担となる可能性があります。

6-5.被後見人の財産は積極的に運用・投資できない

成年後見制度のもとでは、被後見人の財産を積極的に運用・投資することが制限されます。後見人は、被後見人の財産を安全に管理する責任があるため、リスクのある投資や資産運用をおこなうことが難しくなります。

7.成年後見制度以外に考えられる認知症の相続人がいるときの対策

成年後見制度以外に考えられる、認知症の相続人がいるときの対策は以下の3つです。

  • 遺言で財産を譲り渡す
  • 家族信託を利用する
  • 任意後見制度の利用
  • 生前贈与をおこなう

詳しく見ていきましょう。

7-1.遺言で財産を譲り渡す

まず対処法のひとつとして挙げられるのが遺言です。しかし遺言書を残すうえでは、必ず遺言執行者を指定しなければなりません。

遺言執行者がいないと、結局相続人が自分で遺言書の内容に基づいて手続きする必要があります。認知症の相続人では手続きできないので、遺言書を残した意味もなくなります。

遺言執行者を指定しておけば、相続人を関与させずに相続手続きが可能です。遺言執行者は家族以外でもなれますが、自己破産者や未成年者は選べません。

基本的には司法書士や弁護士を選ぶケースが多いので、その点も踏まえて被相続人が生きている間に教えておくとよいでしょう。

7-2.家族信託を利用する

遺言以外にも、家族信託を利用するといった方法も有効です。家族信託とは信頼の置ける家族に対して、親が認知症になった場合に備えて自身の財産を管理できるようにする制度を指します。

例えば父(被相続人)の財産を、あらかじめ子どもに信託したとしましょう。このときに母が認知症を患った場合でも、母の相続分を子どもが管理できます。

ただし子どもが代わりに管理できる財産は、あくまで信託契約で取り決めた範囲のみです。それ以外の財産は相続財産に分類されるため、成年後見制度や遺言も併用するのをおすすめします。

7-3.任意後見制度の利用

任意後見制度は、成年後見制度(法定後見)のデメリットを補うための対策です。本人が元気なうちに、将来判断能力が低下した場合に備えて、後見人になってほしい人(家族など)をあらかじめ契約で決めておく制度です。

法定後見のように家庭裁判所が見知らぬ専門家を選ぶのではなく、自分で信頼できる人を選べる安心感があります。ただし、財産管理の柔軟性は法定後見と大きく変わらない点に注意が必要です。

7-4.生前贈与をおこなう

生前贈与をおこなうことで、被相続人の生前から計画的に財産を移転できます。これにより、相続時のトラブルを回避し、円滑な財産移転が可能となるでしょう。

ただし、贈与税の課税対象となるため、税務上の注意が必要です。

関連記事:生前贈与を受けても相続放棄は可能!注意点や詐害行為取消権も解説

8.まとめ

相続人の一人が認知症を患うと、相続手続きにおいてさまざまな支障が出てしまうのは確かです。しかし事実を隠し通そうとすれば、手続きに支障が出るだけではなく裁判沙汰になる恐れもあります。

隠し続けようとしても、何かをきっかけにバレる可能性は大いにあるでしょう。事実はしっかりと明らかにし、そのうえで対策を講じることが大切です。

司法書士法人・行政書士鴨川事務所では、相続に関するお問い合わせを随時受け付けております。相続で不安に感じていることや悩みなど、1人で抱えこまずにぜひ私たちへご相談ください。

監修者 池部 翔司法書士・行政書士

司法書士法人・行政書士鴨川事務所 代表

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京都司法書士会・京都府行政書士会所属

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