遺言書

遺言書が書けない場合の対処法と代筆・添え手をするリスクを紹介

2026.05.29

「病気や認知症、体の不自由さなどで遺言書を書けない場合の対処法を知りたい」

「代筆や公正証書遺言など、本人が書けない場合でも有効な遺言の残しかたを確認したい」

「遺言書を書けない状態になった際、相続トラブルを防ぐ方法を理解したい」

病気や認知症などが原因で遺言能力がなく、遺言書が書けない方のなかには、上記のような悩みをお持ちの方もいるのではないでしょうか。

遺言書が書けない場合、自筆証書遺言を代筆すると無効になるため、公正証書遺言や秘密証書遺言などの方式を選択する必要があります。

本記事では、遺言書が書けない場合の対処法や代筆・添え手をするリスクを解説します。

遺言書が書けないなかで、家族間のトラブルを防止するポイントも紹介しているため、ぜひ最後までご覧ください。

1.遺言書が書けない場合の対処法

遺言書が自分で書けない場合でも、法律上認められた別の方法や手続きで遺言を残すことは可能です。病気や怪我・高齢などで手が動かない場合も、状況に合った形式を選べば有効な遺言書を作れます。

以下で遺言書が書けない場合の対処法をひとつずつ解説します。

  • 公正証書遺言を検討する
  • 秘密証書遺言を選択する
  • 緊急時は特別方式を検討する
  • 財産目録のみパソコンでつくる
  • 専門家に相談する

ひとつずつ見ていきましょう。

1-1.公正証書遺言を検討する

遺言書を自分で書けない場合の有効な対処法は、公正証書遺言を選ぶことです。

公正証書遺言とは、証人2名が立ち会うなかで遺言者が内容を口頭で述べ、公証人がそれを文書にまとめる形式のため、自分で文字を書く必要がありません。声を出すのが困難な場合でも、筆談や通訳者を介した口授が例外的に認められています。

公正証書遺言は、法律の専門家である公証人が作成するため形式上の不備が生じにくく、改ざんや紛失が起こりにくいです。

関連記事:公正証書遺言に納得がいかないときの対処法と遺言が無効になる5つのケース

1-2.秘密証書遺言を選択する

遺言書を書けない場合、秘密証書遺言を選択するのもひとつの手です。

秘密証書遺言とは、遺言の内容を誰にも知られずに残したい場合に向いている形式で、本文はパソコンで作成できるため、手書きが困難な場合でも内容を準備しやすいです。

ただし、遺言者本人の署名・押印・封印、公証人1人と証人2人以上の前での申述等が必要になります。

また、公証人は内容を確認しないため形式の不備があっても気づかれにくく、相続人が遺言書の存在に気づかないリスクもあるため、秘密証書遺言のメリットとデメリットを十分に理解したうえで選択しましょう。

1-3.緊急時は特別方式を検討する

病気の末期や、緊急の状況で通常の遺言書作成が間に合わない場合は、特別方式の遺言が認められています。状況に応じて、以下4種類の特別方式があります。

  • 一般危急時遺言
  • 一般隔絶地遺言
  • 船舶隔絶地遺言
  • 難船危急時遺言

ひとつずつ見ていきましょう。

1-3-1.一般危急時遺言

一般危急時遺言は、死亡の危機が差し迫っている場合に利用できる方式です。証人3名の立会いのもとで、遺言者が口頭で遺言の内容を述べ、そのうちの1人が筆記します。署名捺印できない場合も、証人が事情を付記することで対応が可能です。

ただし、遺言の日から20日以内に証人の1人または利害関係人が家庭裁判所へ確認請求をおこなわなければなりません。

1-3-2.一般隔絶地遺言

一般隔絶地遺言は、伝染病といった理由で行政区画から隔離された場所にいる場合に利用できる方式です。警察官1名と証人1名の立会いのもとで遺言をおこないます。

外部との連絡が困難な状況でも遺言を残せるのが、一般隔絶地遺言の特徴です。

1-3-3.船舶隔絶地遺言

船舶隔絶地遺言は、航行中の船のなかにいて公証役場へのアクセスが不可能な場合に利用できます。船長または事務員1名と証人2名の立会いのもとで遺言書を作成します。

遺言者が自分で書けない状況でも、証人の立会いのもとで意思を記録することが可能です。

1-3-4.難船危急時遺言

難船危急時遺言は、乗っている船が沈没するといった命の危機が迫っているときに利用できる方式です。証人2人以上の立会いのもと、基本的には口頭で遺言の内容を伝えます。遺言者の口がきけない場合は、通訳人の通訳によって伝える決まりです。

難船危急時遺言は、船の上という緊急の状況を想定しているため、一般的に筆記で伝えるのは現実的ではありません。

そのため、難船危急時遺言は特殊な環境でのみ認められる臨時の方法といえます。

1-4.財産目録のみパソコンでつくる

遺言書を書けないなかで自筆証書遺言を選ぶ場合、本文は自筆が必要ですが、財産目録だけはパソコンで作成できます。

財産目録とは、不動産・預貯金・株式などの資産と負債を一覧にまとめた書類のことです。本文とは別の用紙に作成し、全ページに自筆で署名捺印するのが法律上の要件です。

ただし、病気や怪我などで本文をまったく自筆できない場合は、財産目録をパソコンで作成できても、自筆証書遺言そのものを残すことはできません。

文字が一切書けない状態であれば、自筆証書遺言ではなく公正証書遺言や秘密証書遺言などの方式を選びましょう。

1-5.専門家に相談する

遺言書が書けない場合に安心できる対処法のひとつが、司法書士や弁護士などの専門家に相談することです。専門家は遺言の方式選択のアドバイスだけでなく、公証人との事前調整や必要書類の準備、証人の手配なども手伝ってくれます。

また、専門家に相談すると遺言者の状態や希望に合わせて最適な方式を提案してもらえるため、形式上の不備で遺言が無効になるリスクを減らせます。

1人で判断に迷っているときほど、早めに専門家へご相談ください。

2.遺言書が書けない場合に代筆や添え手をするリスク

遺言書が書けないからといって、家族や第三者に代筆してもらったり、手を添えて書かせたりすると、以下のようなリスクが生じます。

  • 筆跡鑑定で偽造を疑われる
  • 親族間での争いを招く
  • 遺言書全体が無効になる
  • 相続権を失うリスクを負う

ひとつずつ解説します。

2-1.筆跡鑑定で偽造を疑われる

代筆や添え手で作られた自筆証書遺言は、筆跡鑑定で本人のものと認められない場合があります。全文を本人が手書きするのが有効要件のため、他人が代わりに書いた代筆は無効です。

一方で他人に手を支えてもらう添え手については、最高裁の判例でかなり限定的ながら有効となる余地はあります。もっとも実務上は親族間で争いになりやすいため避けるのがおすすめです。

2-2.親族間での争いを招く

代筆や添え手の事実が発覚すると、「本当に本人の意思だったのか」「誰かに強制されたのではないか」といった疑念が生まれ、相続人同士の争いに発展しやすいです。とくに財産分配に不満を持つ相続人がいる場合、遺言書の有効性をめぐって裁判になるケースもあります。

家族の関係を守るためにも、代筆や添え手による遺言書作成は避けましょう。

2-3.遺言書全体が無効になる

自筆証書遺言で代筆が判明した場合、遺言書の一部だけでなく全体が無効となる場合があります。遺言書が無効になると法定相続分にもとづいた分割協議が必要です。

その結果、遺言者の希望とはまったく異なる財産配分になる場合もあるのです。

2-4.相続権を失うリスクを負う

代筆をおこなった人物が相続人である場合、相続人による遺言書の偽造・変造とみなされると、相続欠格事由に該当して相続権を失うリスクがあります。民法では相続欠格として、遺言書を偽造・変造・破棄・隠匿した者は相続人になれないと定められています。

善意でおこなった代筆であっても、偽造と評価される場合は、相続権を失うリスクがある点を覚えておきましょう。

3.自分で遺言書を書けない場合に家族間のトラブルを防ぐ方法

遺言書を自分で書けない状況でも、事前の準備と工夫によって相続後の家族間トラブルを減らせます。

以下では、遺言書を書けない場合に家族間のトラブルを防ぐ方法を紹介します。

  • 事前に家族へ事情を説明する
  • 医師の診断書で判断能力を証明する
  • 作成時の様子を動画や録音で残す
  • 付言事項で自分の想いを伝える
  • 専門家を遺言執行者に選ぶ
  • 遺留分や不公平感に配慮した財産配分を心がける

ひとつずつ見ていきましょう。

3-1.事前に家族へ事情を説明する

遺言書が書けない理由と、どのような方法で遺言を残すかをあらかじめ家族に説明しておくと、のちの誤解や疑念を防ぎやすいです。公正証書遺言を使う理由や専門家に依頼した経緯を共有し、相続人が遺言書の成立過程に不信感を持ちにくい状態にしておきましょう。

情報をオープンにしておくのが、家族間の信頼を維持するうえで大切です。

3-2.医師の診断書で判断能力を証明する

遺言書を作成した時点で遺言者に判断能力があったことを証明するために、医師の診断書を取得しておくのがおすすめです。高齢や病気を理由に「遺言時に意思能力がなかった」と主張されると、遺言書の有効性が争われる場合があります。

診断書があると意思能力を客観的に示せるため、遺言書の信頼性を高める有効な手段になります。

関連記事:相続人の認知症はバレる?バレるタイミングや隠すリスク

3-3.作成時の様子を動画や録音で残す

遺言書を作るときの様子を動画や録音で残すのは、本人の意思を確認するための補助証拠として役に立ちます。ただし、録音や録画は遺言そのものにはならないため注意が必要です。

とくに周囲からの誘導や、認知症の様子が映ると、逆に不利な証拠になるリスクもあります。

正しく記録できれば強制されたわけではないと証明できるため、メリットとデメリットを理解したうえで活用しましょう。 

3-4.付言事項で自分の想いを伝える

付言事項とは、遺言書の本文とは別に添える家族へのメッセージのことで、法的な効力はないものの相続後のトラブル防止につながります。「なぜこの財産配分にしたか」「家族への感謝の気持ち」「今後の家族の関係への願い」を自分の言葉で伝えると、遺言の意図が伝わりやすいです。

付言事項を書けない場合は口述を録音する方法でも、想いを残せます。

3-5.専門家を遺言執行者に選ぶ

信頼できる司法書士や弁護士を遺言執行者に指定しておくと、相続開始後に相続人同士が感情的になっても、中立の立場で手続きを進めてくれます。

遺言執行者とは、遺言の内容を実際に実行する役割を担う人物のことです。

家族を遺言執行者にすると利害関係が生じやすいため、第三者の専門家を選ぶのが家族間のトラブル防止につながります。

3-6.遺留分や不公平感に配慮した財産配分を心がける

財産配分を決める際は、遺留分を踏まえたうえで各相続人の状況を考慮しましょう。遺留分とは、配偶者や子など一定の相続人が法律上保障されている最低限の取得割合のことで、これを無視した配分は相続後の争いの原因になります。

遺言書の内容が特定の相続人に極端に偏っている場合、遺留分侵害額請求や不満を持つ相続人からの異議につながりやすいため、不公平感を生まないよう配慮するのが家族間の平和を守るポイントです。

4.まとめ

遺言書が自分で書けない場合でも、公正証書遺言・秘密証書遺言・特別方式遺言など、状況に合わせた代替手段が法律上認められています。代筆や添え手は遺言書の無効・相続権の喪失・家族間の争いなど深刻なリスクをともなうため避けましょう。

遺言書の有効性を守り、家族間のトラブルを防ぐためには、医師の診断書の取得・作成時の記録・付言事項の活用・専門家の遺言執行者への指定といった事前の準備が大切です。

どの方式を選べばよいか、どう手続きを進めればよいかわからない場合は、司法書士や弁護士などの専門家に早めに相談して、安心できる形で遺言を残しましょう。

監修者 池部 翔司法書士・行政書士

司法書士法人・行政書士鴨川事務所 代表

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京都司法書士会・京都府行政書士会所属

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