相続登記に遺産分割協議書は必須?ない場合の手続きの進め方
遺産分割協議書なしでも預金相続は可能?相続できるケースや手続きの流れ
2025.10.01

被相続人が亡くなった際、一般的には遺産分割協議書を作成して財産の分配方法を決めます。しかしさまざまな理由により、遺産分割協議書なしで預金等を相続したいと考える人もいるでしょう。
そこでこの記事では、被相続人の預金を相続するにあたって、以下の内容を解説していきます。
- 遺産分割協議書なしで手続きすることは可能か
- 遺産分割協議書なしでも預金相続できるケース
- 遺産分割協議書がない場合の預金相続の流れ
- 遺産分割協議書なしでの預金相続における注意点
- 預金相続におけるトラブルの防止策6選
この記事を読むことで、遺産分割協議書なしでの預金相続に必要となる知識をつけることができます。これから預金の相続手続きに臨む方は、ぜひ参考にしてください。
1.遺産分割協議書なしでも預金の相続は可能

結論から述べると、遺産分割協議書を作成しなくても預金の相続は可能です。金融機関や市町村役場などの手続きも、遺産分割協議書なしで進められます。
ただし大前提として、遺産分割協議書がないと手続きがスムーズに進まないことは理解しておきましょう。
ここでは、遺産分割協議書の役割や預金相続における位置づけを解説していきます。
1-1.そもそも遺産分割協議書とは?
遺産分割協議書とは、相続財産をどのように分配するかを記した書類です。基本的に相続分は、事前に民法で定められています。しかし相続人全員の話し合いにより、相続分を自由に決めることも可能です。
遺産分割協議書を作成するには、相続人全員から署名と捺印をもらわないといけません。特に決まった様式があるわけではないものの、必要な項目が抜けていたり、記載ミスがあったりすると効力が発生しなくなる恐れもあります。
相続人だけで作成するのではなく、なるべく司法書士に作ってもらうのをおすすめします。
関連記事:遺産分割協議書を作成しないとどうなる?起こりうる6つのトラブル例
1-2.預金の相続における遺産分割協議書の位置付け
遺産分割協議書は、相続人が複数いる場合に預金をどのように分けるかを示す合意書であり、金融機関での払い戻しや名義変更の際に求められる重要な書類です。
ただし、預金相続において遺産分割協議書の作成が絶対条件というわけではありません。詳しくは後述しますが、たとえば相続人が一人しかいない場合や、遺言書で明確に分け方が指定されている場合には、協議書がなくても預金相続の手続きが可能です。
ただし協議書がないと、金融機関によっては手続きが進まなかったり、相続税申告や後々の不動産登記の際に不便が生じたりする可能性があります。そのため、協議書なしで相続できる場合でも、トラブル防止や将来の手続きを見据えて作成しておくのが望ましいといえます。
2.遺産分割協議書なしでも預金相続できるケース
遺産分割協議書なしでも、預金相続できるケースとして次の5点が挙げられます。
- 相続人が一人しかいない場合
- 法定相続分に従う場合
- 遺言書に従って相続する場合
- 共同相続人全員が同意する場合
- 相続財産が現金・預金のみの場合
なぜ遺産分割協議書が必要とならないかを説明するとともに、具体的な手続き方法も見ていきましょう。
2-1.相続人が一人しかいない場合
相続人が一人しかいない場合、そもそも遺産分割協議をする相手がいません。たとえば兄弟がおらず、被相続人の配偶者(相続人の父または母)もすでに他界している方が該当します。
また兄弟はいるものの、相続放棄や相続欠格、廃除によって相続権を失うケースもあるでしょう。自分以外の相続人が全員相続権を失えば、一人で相続することになります。なお一人の相続人が全財産を相続する方法を、単独相続と呼びます。
預金を単独相続するには、相続人が一人であることを証明すべく、戸籍謄本などの提出が必要です。
2-2.法定相続分に従う場合
法定相続分に従う場合も、金融機関に遺産分割協議書を提出する必要はありません。そのほかの必要書類を提出すれば、問題なく預金の相続手続きを進められます。民法では、法定相続分を次のように定めています。
| 被相続人から見た法定相続人 | 法定相続分 |
|---|---|
| 配偶者と子が相続する場合 | 配偶者:2分の1、子:2分の1 |
| 配偶者と子2人が相続する場合 | 配偶者:2分の1、子:4分の1ずつ |
| 配偶者と直系尊属が相続する場合 | 配偶者:3分の2、直系尊属:3分の1 |
| 配偶者と兄弟姉妹が相続する場合 | 配偶者:4分の3、兄弟姉妹:4分の1 |
ただし法定相続分で話がまとまったとしても、あとから相続人の一人が不満を訴えるケースもないとは言い切れません。したがって「法定相続分に従って相続する」旨を、遺産分割協議書にまとめたほうが賢明といえます。
2-3.遺言書に従って相続する場合
被相続人の残した遺言書に従って相続する場合は、遺産分割協議をおこなう必要はありません。このケースでは、金融機関に遺言書を提出したうえで手続きをします。
遺言書を提出する際には、あらかじめ家庭裁判所で検認手続きを経なければなりません。検認をしていない状態で開封すると、効力が失われるため注意しましょう。
さらに分配方法を指定していない財産がある、あるいは相続分しか決められていない場合、改めて遺産分割協議が必要になることもあります。遺言書を発見したら、まずは内容を細かくチェックしてください。
遺言書がある場合の遺産分割協議について、以下の記事でさらに詳しく解説しています。あわせてご覧ください。
関連記事:遺言書があれば遺産分割協議書はいらない?例外のケースや手続きの手順
2-4.共同相続人全員が同意する場合
共同相続人全員が同意する場合も、遺産分割協議書の提出は不要です。先程も説明したとおり、遺産分割協議書に代えて「相続手続き依頼書」を提出します。
書面には、被相続人の情報や口座情報などの記載が必要です。ただし金融機関によって、書き方が異なるので担当者に確認しながら作成するとよいでしょう。
「相続手続き依頼書」を完成させるには、相続人全員から署名と捺印をもらわないといけません。署名と捺印がないと、全員が同意したとはみなされないため注意してください。
2-5.相続財産が現金・預金のみの場合
相続財産が現金や預金のみの場合も、遺産分割協議書を提出する必要はありません。「相続手続き依頼書」を金融機関に提出すれば、ほかにしなければならない手続きがないためです。
たとえば被相続人が現金や預金のほかに、不動産を所有していたとします。この場合、金融機関に対しては「相続手続き依頼書」だけで対応できますが、法務局で相続登記もしなければなりません。つまり結局のところ、遺産分割協議書が必要になる可能性が高くなるわけです。
基本的に被相続人の財産は、すべて相続の対象となります。現金や預金以外の財産がないかを入念に調べたうえで、どういった方法を採るかを決めてください。
3.遺産分割協議書がない場合の預金相続の流れ
遺産分割協議書がない場合、被相続人の預金を相続するには以下の流れを踏みます。
- 法定相続人を確定し相続発生の連絡をおこなう
- 必要書類を準備する
- 金融機関に必要書類を提出する
- 払い戻しの手続きをおこなう
- 必要に応じて相続税の申告をおこなう
各ステップにおける手続き方法や注意点について見ていきましょう。
3-1.①法定相続人を確定し相続発生の連絡をおこなう
まずは法定相続人を確定し、相続発生の連絡を金融機関におこないます。スムーズにやり取りするためにも、前もって以下の情報を控えておくとよいでしょう。
- 被相続人の氏名
- 口座番号
- 法定相続人の数および被相続人から見た続柄
金融機関に連絡したあとは、原則として被相続人の口座が凍結されるため、預金の引き出しはできません。預金は、ほかの相続人との共有財産になります。代表相続人にならない限り、一人での引き出しはできない点も押さえておきましょう。
関連記事:相続を知らせないのはNG?所在不明の相続人に連絡をとる方法
3-2.②必要書類を準備する
金融機関に連絡する際には、必要書類を併せて確認したほうが賢明です。一般的には、次の書類を揃えておく必要があります。
| 必要書類 | 確認事項 |
|---|---|
| 被相続人の戸籍謄本 | 出生〜死亡までのもの死亡日が記載されているもの |
| 通帳またはキャッシュカード | 被相続人のもの |
| 印鑑証明書および実印 | 相続人全員分 |
| 相続手続き依頼書 | 遺産分割協議書がない場合(取引先の金融機関で取得可能) |
| 遺言書 | 見つかった場合(検認を済ませてから) |
印鑑証明書や実印については、相続人全員分が必要になるため、あらかじめ共有しておくとよいでしょう。
3-3.③金融機関に必要書類を提出する
必要書類を揃えたら、金融機関に提出しましょう。提出方法は、窓口または郵送の二通りです。ただし金融機関によってルールが異なる場合もあるため、あらかじめ確認しておくとよいでしょう。
金融機関への提出が終わったあと、書類の審査まで約1〜2週間程度の期間を要します。スムーズに手続きを進めたいのであれば、早めに必要書類を揃えるようにしましょう。
3-4.④払い戻しの手続きをおこなう
金融機関側が審査をして、問題ないと判断されたら払い戻しの手続きに移ります。払い戻しは、以下の2つの方法でおこなわれます。
- 各相続人の口座に振り込む
- 代表相続人の口座に振り込む
各相続人の口座に振り込む場合は、それぞれの金額を「相続手続き依頼書」にて記載しましょう。代表相続人の口座に振り込むのであれば、後に分配されないトラブルが発生しないよう、信頼の置ける人物を選定することが大切です。
3-5.⑤必要に応じて相続税の申告をおこなう
相続財産の総額が「3,000万円+600万円×法定相続人数」の金額を上回る場合、相続税の申告をしなければなりません。相続税の納付期限は、被相続人の死亡を知った日の翌日から10カ月以内です。
なお「小規模宅地等の特例」など、控除を受けるときは遺産分割協議書を作成していなければなりません。作成が完了していないと、相続税を多めに納めてしまうため注意してください。
4.遺産分割協議書なしでの預金相続における注意点

遺産分割協議書を作成せずに預金の相続を進める場合、以下5つの注意点とリスクが伴います。
- 相続人間でトラブルが起きる
- 金融機関での手続きが遅延する
- 遺留分の侵害が起こる
- 預金口座が凍結される
- 相続税の申告や相続登記時に遺産分割協議書が必要になる
たとえ相続人同士の仲が良く、口約束があったとしても、法的な証明力を持つ書面がなければ、あらゆる場面で問題が生じる可能性があるのです。具体的にどのようなリスクがあるのかを見ていきましょう。
4-1.相続人間でトラブルが起きる
遺産分割協議書がない最大のデメリットは、「言った、言わない」という、相続人間の深刻なトラブルが起きる可能性がある点です。
口約束は、法的な証拠として非常に弱く、時間が経過して記憶違いが起きたり、心変わりが起きたりする可能性があります。
「やはり、あの分け方は不公平だった」と、あとから主張する相続人が現れると、話し合いをやり直さなければなりません。遺産分割協議書による書面での合意がないことが、将来の「争族」の火種となります。
関連記事:【相続で揉める家族の特徴13選】揉める原因や対策も解説
4-2.金融機関での手続きが遅延する
遺産分割協議書がない場合、金融機関での手続きが遅れる可能性は高いです。遺産分割協議書がないと、銀行は相続人全員の同意を個別に確認する必要があり、同意書や印鑑証明の収集に時間を要します。
さらに、追加書類を求められたり、相続人の署名が揃わなければ払い戻しが進まなかったりと遅延の要因が重なるのです。
金融機関は特に慎重な対応を取るため、遺産分割協議書がないと確認に時間がかかるのが一般的です。スムーズに相続を進めたい場合は、遺産分割協議書を作成するか、事前に相続人全員の合意を整えておくことが望ましいでしょう。
4-3.遺留分の侵害が起こる
遺産分割協議書を作成せずに預金の相続をおこなった場合、ほかの相続人の「遺留分」を侵害してしまう可能性があります。
遺留分とは、兄弟姉妹を除く法定相続人に、法律上最低限保障されている遺産の取り分です。遺産分割協議書にて全員が納得して相続をおこなった証拠がなければ、遺留分を侵害された相続人が、あとから金銭の支払いを求めてくるというトラブルに発展しかねません。
4-4.預金口座が凍結される
金融機関は、口座名義人が亡くなった事実を知った時点で、その口座を直ちに凍結します。口座が凍結されると、たとえ相続人であっても入出金や引き落としといった一切の取引ができなくなります。
この凍結を解除し預金を引き出すためには、遺言書か、あるいは、相続人全員の合意を証明する遺産分割協議書などの提出が原則として必要不可欠です。
遺産分割協議書がない場合は、金融機関によって追加書類を求められたり、相続人間での合意確認に時間がかかったりします。払い戻しまで大幅に遅れる可能性があるため注意が必要です。
4-5.相続税の申告や相続登記時に遺産分割協議書が必要になる
遺産分割協議書がない状態で、預金以外にも不動産などほかの遺産もある場合、各種手続きに支障が出ます。
たとえば、相続税の申告で「配偶者の税額軽減」といった税金の優遇措置を受けるためには、遺産分割協議書で誰が何を相続したかを証明する必要があります。
また、2024年から義務化された不動産の相続登記でも、遺産分割協議書が必須の書類となります。相続人が一人しかいない場合や、不動産を相続する人が遺言書で指定されている場合は例外ですが、相続登記には遺産分割協議書が必須であると考えていたほうが良いです。
5.預金相続におけるトラブルの防止策6選
預金の相続で、親族間の無用なトラブルを避け、全員が納得する形でスムーズに手続きを完了させるためには、生前の準備と相続発生後の誠実な対応が不可欠です。ここでは、トラブルを未然に防ぐための、6つの具体的な対策をご紹介します。
- できる限り遺産分割協議書を作成する
- 事前に相続人からの理解を得ておく
- 預金口座の情報を整理しておく
- 代表相続人は通帳や取引履歴を全て開示する
- 預金口座の名義変更を速やかにおこなう
- 専門家の協力を得る
少しの手間をかけることが、将来の大きな争いを防ぐ、最善の策となります。それぞれ解説します。
5-1.できる限り遺産分割協議書を作成する
相続が発生した際は、できる限り遺産分割協議書を作成するようにしましょう。
遺産分割協議書は、相続人全員の合意を証明する唯一無二の公的な証拠となります。この書類さえあれば、金融機関での手続きがスムーズに進むだけでなく、あとから誰かが合意内容を覆そうとしたときの予防策にもなります。円満な相続を実現するための、最強のお守りといえるでしょう。
5-2.事前に相続人からの理解を得ておく
遺産分割の話し合いを始める前に、故人の財産状況や手続きの基本的な流れについて、相続人全員で情報を共有し、理解を深めておくことが大切です。
誰か一人だけが情報を抱え込んでいると、ほかの相続人は、「何か隠しているのではないか」と不信感を抱きがちです。全員が同じスタートラインに立つことが、円満な相続の第一歩です。
5-3.預金口座の情報を整理しておく
これは、主に被相続人が生前におこなうべき対策ですが、どの金融機関にどのような口座を持っているのかを一覧にした「財産目録」を作成しておくことが、残された家族の負担を大きく減らします。
相続が起きたあと、相続人たちが口座の存在を探し回る手間が省け、財産調査がスムーズに進みます。その結果、遺産分割の話し合いも迅速に始めることができます。
5-4.代表相続人は通帳や取引履歴を全て開示する
もしあなたが代表相続人に選ばれた場合、以下の様な相続に関する情報を全て開示しましょう。
- 故人の全ての預貯金通帳のコピー
- 亡くなった時点での残高証明書、
- 過去の取引履歴
これらを包み隠さず開示すれば、ほかの相続人からの「使い込み」や「財産隠し」など疑われることはありません。信頼関係を築くうえで最も重要です。
関連記事:代表相続人が遺産を分配しないときに考えられる理由と対処法
5-5.預金口座の名義変更を速やかにおこなう
遺産分割協議が成立し、遺産分割協議書が完成したら、金融機関にて速やかに預金口座の解約や名義変更の手続きをおこないましょう。
金融機関での手続きを先延ばしにしていると、その間にほかの相続人の心境が変化したり、新たな問題が発生したりする可能性があります。合意があってからすぐに手続きを完了させることが、トラブル防止に繋がります。
5-6.専門家の協力を得る
少しでも相続トラブルの気配を感じたり、手続きが複雑で不安だったりする場合は、なるべく早めに司法書士や弁護士などの専門家の協力を得るのが賢明です。
相続に精通した専門家であれば、財産調査から金融機関とのやり取り、そして最終的な分配まで、中立的な立場で進めてくれます。相続人間の直接的な対立を避け、最も安全かつ円満に、手続きを完了させることが可能です。
6.まとめ
預金や現金を相続するだけであれば、遺産分割協議書なしでも手続きを進められることもあります。ただし法定相続分に従う場合、ほかの相続人から同意をもらった場合などといった要件を満たしているか確認しましょう。
被相続人の口座の解約では遺産分割協議書が不要である一方、作成していないと相続税の控除が適用されなくなる恐れもあります。とくに事情がなければ、なるべく作成しておいたほうが望ましいでしょう。
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